『碁盤斬り』映画レビュー

ハラハラの後に目新しい感動が待っている
映画『碁盤斬り』には、相当ハラハラさせられた。スクリーンの表では、いろいろなことが起きている。凄まじい殺陣のシーンもある。だけど、裏で起こっているはずの事態が気になって気になって気になって、集中できないほどだった。

映画『碁盤斬り』は、『孤狼の血』『凶悪』の白石和彌監督が、草彅剛を主演に迎えて、初めて念願の時代劇に初めて取り組んだ作品。草彅剛も、『青春18×2 君へと続く道』で、フレッシュな存在感で感動させてくれた清原果耶も、新たな魅力を発揮している。

浪人・柳田格之進(草彅剛)は娘のお絹(清原果耶)とふたり、江戸の貧乏長屋に暮らしていた。たしなんでいる囲碁も、嘘偽りのない勝負を心掛ける。清廉な性格と実直さは、囲碁で知り合った萬屋の主人(國村隼)にも影響を与えるほどだった

ところが、故郷、彦根藩での過去の出来事の真相を知らされ、さらに、あらぬ疑いがかけられ、柳田は大きな決断を迫られる。

『碁盤斬り』は、今までの時代劇にはない要素が目を引く。例えば、映画の基本素材である囲碁。今では囲碁について目にすることもゲームすることも少ないが、江戸時代では、庶民の娯楽や交流のために根付いていた。碁石を置く、カチリという音が、耳に心地よい。

春夏秋冬、町の音。庶民の生活や笑顔、まるで江戸時代そのものに招き入れられたような世界の透明感と温かさも、今までの時代劇とは違う空気感がある。それを遠景で見せ、そろりそろりと柳田親子をはじめとした主要登場人物の世界が近づいてくる。その流れがスムースだ。

今まで、存在感や一瞬で空気を入れ替える力で、映画やテレビで活躍してきた草彅剛の演技は、『碁盤斬り』では新たな段階を見せてくれる。中年以降の静かな姿。冷酷な覚悟にもリアリティがある。サムライの本質とは、こういうものだったのか、というため息ともつかない感慨をもたらす。

中盤以降にずっとあった、ハラハラ感がそっと収束する時、今までにない違った種類の感動が待っている。

(オライカート昌子)

碁盤斬り
5月17日(金)全国公開
©2024「碁盤斬り」製作委員会
配給:キノフィルムズ
監督:白石和彌
出演:草彅剛
清原果耶 中川大志 奥野瑛太 音尾琢真 / 市村正親
斎藤工 小泉今日子 / 國村隼
脚本:加藤正人
音楽:阿部海太郎