『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』解説・あらすじ
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』 とは
オーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクの中編小説「チェスの話」を映画化。
『ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~ 』のフィリップ・シュテルツェル監督が、『帰ってきたヒトラー』のオリバー・マスッチを主人公の公証人、ヨーゼフ役に起用。『西部戦線異状なし』のアルブレヒト・シュッフが、ナチス将校とチェスのチャンピオンの二役に挑戦している。
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』 あらすじ
ヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は、ロッテルダム港で妻のアンナと久しぶりに再会。これから豪華客船でアメリカに向かうのだ。やつれた様子のヨーゼフに妻は、「すべて元どおりになる」と言うのだが、それまでに彼に起きた出来事が、彼を苦しめ続けている。
かつて豪華絢爛なウィーンで贅沢な暮らしを送っていたヨーゼフに悪夢が襲ってきたのは、オーストリアがナチスに併合されたこと。顧客の情報を明かすように、ナチスの将校に強要されたが、否認した彼は、”特別処理”に回される。家具しかないホテルの一室に幽閉される精神的拷問だ。
ヨーゼフは、その苦難の日々の記憶から逃れられない。そんなある日、豪華客船の船内でチェスの試合が行われているのに気づく。相手はチェスの世界チャンピオン。もちろん、誰も太刀打ちできない。ヨーゼフは、そんな世界チャンピオンとチェスの対戦をすることになってしまう。そして明らかになるのは、彼が、特別処理から逃れた衝撃の経緯だった。
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』映画レビュー
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』の主演俳優は、見たことがあるような気がするけど、最初は、誰なのか思い出せなかった。それにしても、とてつもない存在感と実力だ。『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は、緊迫感と仕掛けと共に、俳優の演技力の冴えが光る映画だ。
彼が誰なのか、思い出せなかったのも無理はない。主役のオリバー・マスッチは、『帰ってきたヒトラー』で、現代にタイムスリップしてきたヒトラー役。あの時は、扮装が上出来だったし、今回の役とは違い過ぎる
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』でも、ウィーンで生活を満喫している姿、憔悴しきった船上の姿、ホテルの何もない部屋に閉じ込められ、徐々に変化していく様子の違いは、圧倒的だ。同じ人物と思えないほどだ。
幽閉されたホテルの部屋では、ほとんど一人芝居。緊張の持続と心境の波の密度の濃さ。ヨーゼフの苦しみ、そして、ある時、偶然に手に入ったものとの出会いの喜びが、見ている側へ強く伝わってくる。
ナチスを題材にとった映画は、次から次と公開されるけれど、『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は、あいつらは悪で、こちらは善だというような、ありきたりで単純なところはない。そういう意味では、普通のナチス映画とは違う。一人の男の魂の戦いが描かれている。
原作者のシュテファン・ツヴァイクは、オーストラリアのユダヤ系の高名な作家だったが、ナチスに迫害を受け、、1934年以来、イギリスに亡命。米国、ブラジルと居を移した。原作本『チェスの話』の原稿を、チェスの専門家に見せた後、妻とともに命を絶った。
第一次世界大戦、第二次世界大戦の二つの世界大戦により、旧ヨーロッパの自由と尊厳を謳歌した世界は失われた。ツヴァイクの持つ喪失感は、『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』の衝撃のラストとともに、深く伝わってくる。
ナチスに仕掛けたチェスゲーム
7 月 21 日(金)シネマート新宿他全国順次ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER
RUNDFUNK
出演:オリヴァー・マスッチ、アルブレヒト・シュッへ、ビルギット・ミニヒマイアー
監督:フィリップ・シュテルツェル
原案:シュテファン・ツヴァイク(「チェスの話」)
2021/ドイツ/ドイツ語/112 分/カラー/5.1ch/シネマスコープ/原題:Schachnovelle/G/字幕翻訳:川岸史
© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER
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公式サイト:royalgame-movie.jp