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眉唾ものの話だが、詐欺師は刑務所の中で尊敬されると聞いたことがある。口八丁、手八丁、騙しのテクニックが刑務所内でも通用するのだろうし、なにより、詐欺師は人の心の裏表によく通じているからではないだろうかと愚考する。同房の受刑者にそのノウハウを伝授すれば、彼らの社会復帰に役立つこともまれではないはずである(!)

本作に登場する男女優4人の中で最もわたしの気を引くのは、イギリス出身のイーディス(実はアメリカ娘シドニー)を演じるエイミー・アダムスだ。彼女が詐欺師アーヴィン(クリスチャン・ベイル)と知り合うきっかけはデューク・エリントンで、彼の名曲に「何度も救われたわ」と答える彼女の声が素晴らしい。その曲にうといわたしですら胸をつかまれる会話の妙。互いに打てば響く詐欺師カップルはこうして誕生する。さほど色男でもないアーヴィンの才能は、人の琴線にふれることのできる感性と話術にある。

そんな二人に目をつけたのがFB捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)で、政治家の汚職を暴くために二人を泳がせ、後でおいしいところをいただこうという寸法だ。これはセコイと腹立たしく思うわたしは、はなから詐欺師カップル寄り。ここにずれたテンポで加わるのがアーヴィンの若妻ロザリンで、演じるのは、昨年アカデミー賞主演女優賞を獲得したジェニファー・ローレンスだから、映画好きにはかなりのご馳走が並べられたことになる。

本来、エイミーの引き立て役になるはずのジェニファーが華やかでチャーミング過ぎるので、わたしははらはらしてさらにエイミーに肩入れすることになる。なぜ、エイミーが好きなのか。端的に言えば、努力を重ね、苦労しているふしが随所ににじむからである。しかも苦労を売りものにしていない気品と知性があり、イギリスの名家の出身というホラ話をみごと体現するだけの器がある。こういう女が勝てなかったら、世も末である。

残念なのは、彼女がイギリス訛りの英語から、出身地ニューメキシコの英語に変えるシーンで、その発音のニュアンスをわたしは全くつかめないことだ。日本人に置き換えるなら、東京山の手風の発音を、河内弁に変えるというようなことだろうか。しょせん異国の女に肩入れしてもむなしいな、と一瞬思う。

だが彼女に肩入れしたわたしの想いは報われ、オチは何とも胸のすく詐欺師カップルの勝利である。しょせん巨悪は野放しにするFBIに花を持たせる気はないぜ、と言いたげな作者の姿勢に心から敬意を表する。デヴィッド・O・ラッセル監督もまた、刑務所で尊敬されるべき詐欺師のひとりであろう。
(内海陽子)

・アメリカン・ハッスル 映画レビュー(感想)(オライカート昌子)

アメリカン・ハッスル
2013年 アメリカ映画/サスペンス・犯罪・コメディ/138分/原題:AMERICAN HUSTLE/監督:デヴィッド・O・ラッセル/出演・キャスト:クリスチャン・ベイル(アーヴィン)、ブラッドリー・クーパー(リッチー)、ジェレミー・レナー(カーマイン)、エイミー・アダムス(シドニー)、ジェニファー・ローレンス(ロザリン)、ルイス・C・K (ストッダード)、マイケル・ペーニャ(パコ)ほか/配給:ファントム・フィルム
2014/1/31(金)よりTOHOシネマズみゆき座他ロードショー
『アメリカン・ハッスル』公式サイト http://american-hustle.jp/