『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー その1 映画を作るまで

『侍タイムスリッパー』は、単館公開から、公開一か月後に100館以上の拡大公開された話題作。『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督は、監督だけでなく、製作・脚本・撮影・編集などを兼務。安田淳一監督にお話を伺いました。今回はその一回目です。

カメラを止めるなは奇跡ではない、再現性があるのではないかと考えた


━━タイムスリップ映画が好きなこともあって、『侍タイムスリッパー』は、公開前から気になっていた作品だったんです。拡大公開のニュースを聞き、すぐに池袋シネマロサへ行きました。満席な上、とてもいい雰囲気で上映されていました。このように1館から100館以上に拡大公開というのは、奇跡的ですね。

安田淳一監督:奇跡と言えば、『カメラを止めるな』があります。でもあれは、奇跡ではない、再現性があるのではないかということを考えて、頑張ってきました。

ですが、そう考えてやったことは、今ここにきている理由の全体の10パーセント以下ぐらいで、あとの90%は、幸運やいろいろな方たちの助けがあります。なのでドヤ顔で誇る気持ちにはなれないです。

━━めぐりあわせというか、

安田淳一監督:幸運と、めぐりあわせですね。もし僕が福本清三さんと出会っていなかったらとか、その関係で東映京都撮影所にし脚本を預けてお声がけしていただかなかったらとか、また、その年引退される、名物プロデューサーさんがいなかったらとか、もし山口馬木也さんや冨家ノリマサさんと出会っていなかったらとか、東宝シネマズさんやギャガさんが、劇場まで来て見てくださらなかったらとか、何か要素が一つ欠けると、ここまで来ていないと思うんです。

努力だけでは簡単には出てこれない


━━『侍タイムスリッパー』は、大手が定期的に劇場にかける映画だけでなく、新しいものがポツポツと生まれてきている今の日本の映画の状況の一つの象徴にも思えるのですが。

安田淳一監督:『侍タイムスリッパー』だけでなく、インディーズ映画の中から生まれてきているものはたくさんありますね。見ている側からしたら、ポッと生まれてきているようにも見えるけれど、僕も含めて皆が凄い努力というか、かなりの危ない橋を渡って作っていますね。今はなくなりましたが、当時文化庁のAFF2という補助金制度が取り組みがありまして、それは唯一助けてくれました。

努力だけでは、簡単には出てこれない作品群だと思います。こういう作品が現われるまでには、無数の討ち死にしていく映画があります。今回は、それこそ幸運とか努力とか、人の助けもあって、何とかやってこれた映画だと思います。

2時間弱で作ったプロット


━この映画はまず、脚本が素晴らしいと思うのですが、着想はどこから得たのですが?

安田淳一監督:ある企画コンペで、時代劇の企画を考えてみないかということがありました。僕は、時代劇も好きだったんですが、そうか、時代劇かと思ったとき、そういえば、何年か前に、テレビで見たCMを思い出しました。侍が現代にタイムスリップしてジタバタする面白いコマーシャルだったんですが、面白いなと思って見ていたんです。

その記憶と、僕の中で敬愛している福本清三さんの斬られ役が合体したんです。侍がタイムスリップしてきて斬られ役になる。このアイデアは、おもしろいんじゃないかなと。多分これ、めちゃめちゃおもろくなると。

それで30分くらいでプロットをパパっと書きました。タイムスリップ時代劇というのは、『戦国自衛隊』をはじめとして、一つのジャンルとして確立するぐらい様々なものが作られていますよね。とにかく山ほどある。そのジャンルの中で、この設定はなかったし、多分これはめちゃくちゃ面白くなるという確信はありました。

そのあと、これは単なるコメディにするにはもったいないと思いなおし、撮影所を舞台にしている映画なら、僕の大好きな『蒲田行進曲』があります。あれを思い起こしてみると、クライマックスで階段落ちがあって、凄く盛り上がっている。

じゃあこの映画に、クライマックスを作れへんかなと思ったとき、どこから落ちる? 階段はやっている。お城からだったら、ほんまに死んでしまう。それで思いついたのが、あのクライマックス。そうなると、対立する相手が必要。あとは逆算でプロットを書き上げました。

そこまで、一時間半から二時間ぐらい。それを人にちょっとしゃべったら、「めちゃめちゃおもろいわ、撮ったほうがええわ」と呑気にいうわけですよ。それで企画書を書いて、本格的に始めることにしました。>>>安田淳一監督インタビュー その2 キャスティングの秘密へ

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(取材/文 オライカート昌子

侍タイムスリッパー
絶賛公開中
©2024 未来映画社
配給:ギャガ 未来映画社