謎めいた世界で、マット・デイモンが恋に悶える『アジャストメント』は、いまやハリウッドで一番引っ張りだこの俳優マット・デイモン主演のSF・スリラー・ロマンスである。今回マット・デイモンが演じるのは若き上院議員候補者デヴィッド・ノリス。貫禄といい、押し出しといい、フレッシュさといい、文句のつけようのない演技だ。
マット・デイモンが日本の女性陣にどれだけ人気があるのかはわからないが、今まで演じてきた作品が、硬派な、ほとんどが男性的なアクションやドラマだったのを思い起こすと、『アジャストメント』では今まで見たことのない、恋に悶えるマット・デイモンを見ることができるのがポイント。
相手役のエミリー・ブラントの美しさや、個性的な存在感を見るにつけ、マットが恋に悶えても仕方がないところがある。この作品も、元はといえばフィリップ・K・デッィク原作の短編をもとに作られた十分硬派なSF・サスペンスである。
ところが、2人の出会いの場面が個性的過ぎるし、スムーズさが際立って、普通だったらあり得ない状況にもかかわらず、そこから恋のストリームともいいたいほどの強大な波に、こっちものまれてしまう。こんなに相性のいい2人なのに、恋の邪魔者(かなり手ごわい)が出現するのである。
恋の邪魔者(これこそが調整局職員なのだが)出現の場面は、今まで普通のロマンスを見ているつもりだった、あるいは政治(ポリティカル)ストーリーを見ているつもりだった我々がハッと息を呑む瞬間だ。鮮やか過ぎる。そこでやっとこれがSFだったことに気づかせられる。
かといって、SFとして出来が悪いわけではない。帽子をかぶった職員たちの姿は折り目正しくて50年代ごろのCIAのようだし、その不条理さも『未来世紀ブラジル』のようでもある。そして、昨今の私たちを取り巻く状況を考えると、こんなストーリーも「あり得るかも?」と思わせる力もある。
物語を引っ張る力としてのロマンスを最大限に利用しながら、多重的かつ一人一人見ているものが違うかもしれないという謎めいた世界観ををチラりと垣間見せてくれる不思議な作品でもある。(オライカート昌子)
2011年 アメリカ映画/106分/監督:ジョージ・ノルフィ/出演:マット・デイモン、エミリー・ブラント、アンソニー・マッキー、ジョン・スラッテリー、テレンス・スタンプほか、
『アジャストメント』オフィシャルサイト
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