マレーシア映画には特別なイメージがある。南国の空気感、豊かな人間観、死生観に余裕を感じる。今は亡きヤスミン・アフマド監督の『タレンタイム~優しい歌』から受けた印象が強かった。
『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』も最高の意味での衝撃をもたらしてくれた。映像は格調高く揺らがない。音楽の調和度もこれ以上にないほどだ。語られるストーリーには深い没入感がある。周囲がすっかり『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり 』の色で染め尽くされ、見終わってもその色調は、消えずに残っている。
マレーシア、クアラルンプールの最下層、富都(プドゥ)地区で兄弟として生きる二人、アバン(ウー・カンレン)とアディ(ジャック・タン)。ID(身分証明書)を持たない二人は、末端の生活から抜け出せない。兄のアディは耳に障害を持っているが、誠実な態度で会う人すべてに穏やかさをもたらす。弟のアディは、無鉄砲で何をしでかすかわからない。弟アディの方は、出生証明書を持っているので、その気になれば、身分証明書を取得するのは不可能ではない。
アバンはアディのことが心配だ。小さいころから何かと面倒見てきた。アディがちゃんとした仕事を持ち、IDを取得し、銀行口座を持ってもらいたいと切に願っている。
だが人はなかなか変われない。アバンもアディも変われないのか。それが、『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり 』の主軸テーマとして浮き上がってくる。
壊滅的な出来事が起こり、アバンとアディの関係も変化せざる得なくなる。そこから映画が訴えてくるストーリーは凄まじさと同時に平穏すら感じさせる不思議なインパクトで襲い掛かる。
やはり、マレーシア映画は心して観なくてはならない。ちなみに『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり 』は台湾映画でもある。アバン役のウー・カンレンは台湾の人気俳優。そしてアディ役のマレーシアのスター俳優ジャック・タンが演じている。監督はマレーシア人。『ミス・アンディ』などの社会派作品をプロデュースしてきたジン・オングが長編初監督・脚本を手がけた。台湾とマレーシアが繋がった時の映画がもたらす豊穣性には目を見張らざる得ない。
Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり
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スタッフ・キャスト
監督
ジン・オング
脚本
ジン・オング
製作
アンジェリカ・リー アレックス・C・ロー
撮影
カルティク・ビジャイ
美術
スーン・ヨン・チョウ ペニー・ツァイ
衣装
エレーン・ング
編集
スー・ムン・タイ
音楽
片山涼太 ウェン・フン
主題歌
片山涼太
挿入歌
ユン・メイシン
アバンウー・カンレン
アディジャック・タン
マニータン・キムワン
ジアエンセレーン・リム
シャオスーエイプリル・チャン
犯罪集団のボスブロント・バララエ
2023年製作/115分/PG12/マレーシア・台湾合作
原題または英題:富都青年 Abang Adik
配給:リアリーライクフィルムズ
劇場公開日:2025年1月31日