『バッド・デイ・ドライブ』映画レビュー 瀬戸際で披露されるアカデミー級演技

『バッド・デイ・ドライブ』の主人公、マットを演じるのは、リーアム・ニーソン。なぜ彼を起用したのか、最初はわからなかった。その理由がわかったのは、映画の最後だ。

マットは、金融サラリーマン。かなり稼いでいるようだ。ベルリンに住み、息子と娘に恵まれ、美しい妻もいる。素晴らしい車も持っている。

その素晴らしい車に爆弾が仕掛けられた。それは、通勤途中に非通知電話がかかってきたことで知らされる。子どもたちも同乗していた。そこからマットのバッド・デイ・ドライブがスタートする。

爆弾は、車の座席に仕掛けられ、降りれば爆発する。ほぼノンストップのリアルタイムで発生する連続危機を切り抜けることはできるのか。こどもたちを守ることはできるのか。

彼は、同僚が同じ目にあい、目の前で爆死するのも目撃する。というより目撃させられる。そしてベルリン警察は、マットを犯人として追ってくる。

映画の中のシーンは、車中がほとんど。年に何本も映画でアクションするには、確かにリーアムは年老いている。だが、演技力は抜群。細かい演技はお手の物だ。

犯人として追われつつ、爆弾を爆発させないために犯人の要求をのみ、子どもを守り、真相を探る。ヘタな俳優では、こなせない。そこにリーアム・ニーソンの、アカデミー賞演技力が必要になってくるわけだ。

ラストに明かされる真相は、ショッキングなもので、複雑な細かい演技力がものを言う。彼の感情と思考が崖の突端を歩くような瀬戸際の状況で揺れる。リーアム・ニーソンの真価が問われる一瞬だ。

リメイク元は、2015年のスペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』。ドイツや韓国でもリメイクされた人気作品だ。

ほとんど車中で起こる出来事を描いた映画は、珍しいものではなく、最近でもアイルランド、ベルファストを舞台にした『ナイトライド 時間は嗤う』が、秀作だった。2004年の、トム・クルーズが初の悪役を熱演した『コラテラル』も車中サスペンスの良作。

車中映画は、閉ざされた空間のサスペンスだけでなく、車外光景の現地でドライブしているような臨場感も捨てがたい。ただし、『バッド・デイ・ドライブ』の街としてのベルリンは、特筆するような光景は出てこない。ベルリンは、豪奢なツーリストスポットのブランデンブルグ門などを除けば、普通の都市なのだろうか。

(オライカート昌子)

バッド・デイ・ドライブ
12 月 1 日(金) 新宿ピカデリー他全国公開
© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.
配給:キノフィルムズ
監督:ニムロッド・アーントル
出演:リーアム・ニーソン、ノーマ・ドゥメズウェニ、リリー・アスペル、ジャック・チャンピオン、エンベス・デイヴィッツ、マシュー・モディーン
2023 年|イギリス|英語・ドイツ語|カラー|スコープサイズ|5.1ch|原題:Retribution|91 分|
提供:木下グループ bdd-movie.jp