『ヒポクラテスの盲点』映画レビュー 知性への挑戦

ヒポクラテスの盲点は、大西隼監督のドキュメンタリー。国が推奨し、新型コロナに対する”救世主”と喧伝されたワクチンを取り巻く状況を多面的かつ科学的に描き出す。知性を駆使した適切さと誠実さと真摯さには心底驚かされた。

最近では映画の中でも新型コロナ時代を呼び起こす作品がちらほら登場するようになった。『フロントライン』は日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での実話を基にしドラマだった。『この夏の星を見る』は、コロナ時代の学生生活を鮮やかに描き出していた。アメリカ映画では、コロナ禍真っ只中のロックダウン中のアクションサスペンス映画『ソングバード』があった。

感染症が広がり、政府が初の緊急事態宣言を出してから5年が経ち、感染症法上の位置付けが5類に移行して2年が過ぎた今こそ、あの時何が起こっていたか、政府の対応はどうだったのか、ワクチンは何をもたらしたのかを透明な視線で見通す時期が来たのだろう。その決定版ともいうべき映画が『ヒポクラテスの盲点』だ。

ヒポクラテスはギリシャ時代からの医学の父としての誓いが有名。今でもヒポクラテスの誓いは、医療従事者の間で基本的な倫理として共有されている。その誓いの中に「害することなかれ」がある。「害することなかれ」は、『ヒポクラテスの盲点』の中で強くクローズアップされている。なぜなら新型コロナワクチンの接種推奨環境と、その後明らかになりつつある大きな後遺症問題があるからだ。

『ヒポクラテスの盲点』に登場するのは、後遺症で苦しむ人々のほか、新型コロナワクチン後遺症の影響を科学的に究明しようとする医師たち、推奨した立場の人物の証言などを網羅している。バランスある見方と科学的データや論文やこの5年間の流れをしっかりと描いているところに感銘を受けた。

さらには、後遺症に対する新たな治療や、希望、驚くべき日本が最先端を走る再生医療の最前線にもスポットライトを当てているところにも注目。決して人ごとにせず、自らの知性への挑戦として見るべき映画だと心から感じた。

(オライカート昌子)

ヒポクラテスの盲点
©「ヒポクラテスの盲点」製作委員会 
10月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
配給:テレビマンユニオン
企画・監督・編集:大西隼 撮影:井上裕太 音楽:畑中正人 CG:高野善政 プロデューサー:杉田浩光 杉本友昭 大西隼
出演:福島雅典(京都大学名誉教授) 藤沢明徳(ほんべつ循環器内科クリニック理事長) 児玉慎一郎(医療法人社団それいゆ会理事長)
上田潤 大脇幸志郎 上島有加里 宜保美紀 佐野栄紀 新田剛 楊井人文
製作:「ヒポクラテスの盲点」製作委員会 制作・配給:テレビマンユニオン
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
2025年/日本/110分/ステレオ/16:9  (C)「ヒポクラテスの盲点」製作委員会   hippocrates-movie.jp