『ハント』映画レビュー

歴史の暗雲を見据える意思が暴力の波を超える
血みどろの1980年代。それは、韓国の場合だ。日本がバブルの時代を謳歌していたころ、韓国では、全斗煥[チョンドゥファン]大統領が独裁的な統治を行っていたため、国民は苦しみ、反対し、弾圧されていた。北朝鮮との紛争も緊張が高まっていた。『ハント』は、そんな時代を背景に描く、スタイリッシュスパイアクションだ。

1980年代の緊張高まる時代にワープする映画『ハント』の感覚は、格別だ。アクション映画としてのエンタメ要素は、スパイを”ハント”していくスリルでコーティングされている。

監督とW主演の一人に、Netflix配信のドラマ「イカゲーム」で、主人公のソン・ギフン役を演じたイ・ジョンジェ。安全企画部(旧KCIA)の海外次長パク役。もう一人の主演は、「無垢なる証人」(19)、「藁にもすがる獣たち」(20)などのチョン・ウソン。彼は国内次長キムを演じている。この二人の存在感と演技力は圧倒的だ。真っ向からぶつかりつつ、スパイの正体を追っていく姿が強引にも似た説得力を醸し出している。

機密情報が「北」に漏れていた。安全企画部(旧KCIA)内にスパイがいるのが確実だった。パクとキムは、それぞれが捜査をはじめる。二重スパイは誰なのか。わからなければ、自分たちが疑われる。事態は緊迫し、さらに大統領暗殺計画等、巨大な陰謀の存在が見えてくる。

国家権力の大きく覆いかぶさる勢力に、どのように個人は対処し、向き合っていくのか。暗黒の歴史に目をそらさずに描き切ろうというイ・ジョンジェ監督の意思と、映画としての面白さを追求、両立させていく技能は、相当なものだ。

当時、独裁政権の下で実際に起きていたことは、映画で描かれる世界より、ずっと凄惨だっただろう。目を逸らさず、真正面から検証していく。その姿勢の清々しさが、映画を彩る暴力の波より印象的だ。

(オライカート昌子)

ハント
9月29日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
脚本・監督:イ・ジョンジェ
出演:イ・ジョンジェ、チョン・ウソン、チョン・ヘジン、ホ・ソンテ、コ・ユンジョン、キム・ジョンス、チョン・マンシク
2022年/韓国/DCP5.1ch/シネマスコープ/韓国語・英語・日本語/125分/PG12/헌트(原題)HUNT(英題)/字幕翻訳:福留友子・字幕監修:秋月望/配給:クロックワークス
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