ソフィア・コッポラ作品『プリシラ』

年に一度は見返したくなる映画と記録映画がある。

フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』(1979年)と

その撮影記録映画『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』

(1991年)だ。

『ゴッドファザー』『ゴッドファザーPARTⅡ』の記録的大ヒットで

巨万の富と名声を得た後、周囲の猛反対を押し切り取り組んだ戦争映画が

『地獄の黙示録』で、その苛酷な異国でのジャングル撮影を記録し続けた

ドキュメンタリーが『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』。

タブーとされたベトナム戦争の映画化、度重なる役者の交代劇、資金難、

本国スタジオとの対立、巨大ハリケーンによるセット全壊、

そして名優マーロン・ブランドの撮影契約不履行などなど、

その都度、世界中のゴシップ誌を賑わせた。

ついには、フランシス・フォード・コッポラ監督が

銃をこめかみに当てる映像が報道され、

それがそのままポスターにも使用されたので、

ご存知の方も多いと思う。

呪われた映画として長期間混迷を極めた「いわく付き超大作」と

その「記録映画」。

『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』は、

コッポラ監督の妻エレノア・コッポラが撮った記録映画だが、

当時4歳だった娘のソフィア・コッポラも現地に同行しているのだ。

あらためてオドロイタ!

4歳の女の子にとって長期にわたるフィリピンのジャングル・ロケは

トラウマになっただろうな〜。

前置きが長いが、

そんなソフィア・コッポラが監督になった時(1999年)にも驚いて、

またこの2本立てを見た記憶がある。

はたしてそのトラウマは彼女の映画に影響を与えているのだろうか。

『ロスト・イン・トランスレーション』『マリー・アントワネット』

『SOMEWHERE』『オン・ザ・ロック』等々、

ソフィア・コッポラ監督は独自のカルチャー路線を

創造し続けているけれど、やはりその根底には父と娘の強固なつながり、

フャザコンにも似た淡い娘心がにじみ出ている気がする。

だから、エルヴィス・プレスリーの妻プリシラが

1985年に発表した回想録「私のエルヴィス」をもとに、

世界的スターと恋に落ちた少女の波乱の日々を描いたドラマを

映画化するニュースを聞いたとき、

ソフィア・コッポラ監督らしい題材だと腑に落ちた。

映画『プリシラ』。

14歳の少女プリシラはスーパースターのエルヴィス・プレスリーと出会い、

恋に落ちる。やがて彼女は両親の反対を押し切って、

大邸宅でエルヴィスと一緒に暮らし始める。

これまで経験したことのない華やかで魅惑的な世界に足を踏み入れた

プリシラにとって、彼のそばでともに過ごし彼の色に染まることが

全てだったが……。

ソフィア・コッポラ監督は語る。

「多くの10代の少女が年上のセレブとの恋に憧れますが、

プリシラはそれを現実にしました。

私が興味を持ったのは、どうやって夢を叶えたかではなく、

グレースランドで成長するにつれ、

プリシラの望むものがどう変わっていったのかを探ることでした」

見る者は、プリシラの色鮮やかで絢爛、

かつ危なっかしい夢の世界に引き込まれていく。

不安と孤独の感覚、

そして表現しきれない愛の感覚に高まっていくはずだ。

ソフィア・コッポラ監督は、

プリシラがエルヴィスと過ごした時間を

ミステリアスな内面から描き出す。

やがてプリシラは、次々と欲望をそそり、息苦しく、

変容する幻想を生きて特異なアメリカ的青春を体験するにつれ、

視野が大きく開けて自我に目覚める。

「紆余曲折を経て、やっと自身の人生を見つけたプリシラの

心情を表見したかった」と監督は語る。

プリシラを演じたケイリー・スピーニーは、

夢見る少女から大人の女性へと変化を遂げる見事な演技で応え、

ベネチア国際映画祭最優秀女優賞を受賞。

また、ゴールデングローブ賞ドラマ部門で主演女優賞に

ノミネートされるなど高い評価を得ている。

プリシラだけが知るエルヴィスのプライベートな側面を演じたのは、

ジェイコブ・エロルディ。

魅力的で華やかで、

アーティストとしての葛藤と傷つきやすい心を抱えた

エルヴィスを好演している。

これまた評判の映画音楽は、

ソフィア・コッポラの夫トーマス・マーズのポップロックバンド

Phoenixが担当。60〜70年代の魅惑的な空気感をうまく伝えている。

最後にこの『プリシラ』をもっと楽しんでもらうための豆知識で締めよう。

謎多きエルヴィス・プレスリーを知るために

2022年のオースティン・バトラー版『エルヴィス』もよろしいが、

私なら断然『エルヴィス&ニクソン』(2016年)をオススメする。

それぞれをマイケル・シャノンとケヴィン・スペイシーが快演した

カルト的映画で、エルヴィスの奇行が興味深くうかがえる。

そして、エルヴィスとプリシラの実の孫娘ライリー・キーオが

シリアルキラーの餌食になる『ハウス・ジャック・ビルト』(2018年)

とライリー・キーオがマリリン・モンローを彷彿とさせる金髪で

男を悪夢に引き込む『アンダー・ザ・シルバーレイク』(同年)も

オススメしたい。


そしてさらなる情報。

ソフィア・コッポラの父フランシス・フォード・コッポラ監督の

新作『Megalopolis』が完成したらしい。

本年度カンヌ国際映画祭のクロージング上映説が飛び交っている。

父だの娘だの、そのまた孫娘だの、話はこんがらがってしまうが、

まずは映画『プリシラ』を見てからひとつひとつ解決していきましょう。

夢にまで見たスーパースターとの恋、豪華絢爛、贅沢な暮らし

そして、、、全てを味わってほしい。。。

(武茂孝志)

『プリシラ』

4/12(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー‬

監督・脚本:ソフィア・コッポラ

出演:ケイリー・スピーニー『パシフィック・リム:アップライジング』(18)、『ビリーブ未来への大逆転』(18)

ジェイコブ・エロルディ『キスから始まるものがたり』(18,20,21)

「ユーフォリア/EUPHORIA」(TV・19~)

配給:ギャガ

PRISCILLA/2023/113分/アメリカ・イタリア/ビスタ/5.1chデジタル/

字幕翻訳:アンゼたかし

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