
『ライトハウス』『ノースマン 導かれし復讐者』のロバート・エガース監督の最新作、映画『ノスフェラトゥ』の成功の要因は、俳優陣の演技が素晴らしいだけでなく、監督が発揮した握力や制御力にある。
キャスティングは、セカンドチョイスだったらしい。エレン役に最初にキャスティングされたのは、『ノースマン 導かれし復讐者』で刺激的な役を演じたアニャ・テイラー=ジョイ。降板となり、リリー=ローズ・デップが主演エレンを演じた。彼女が見せてくれたエレンは、はかなげな中にある強さと決意がまさに適役だった。
エレンの夫ハッター役にはニコラス・ホルト。その前にハッター役とされていたのが『IT イット “それ”が見えたら、終わり』(17)で殺人ピエロ・ペニーワイズを熱演し、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』で悪辣で優美な敵役グラモン侯爵を演じたビル・スカルスガルド。ビル・スカルスガルドは、その後オルロック伯爵にキャスティングされた。それが奇跡的で決定的な効果を上げている。ちなみにビル・スカルスガルドの兄のアレクサンダー・スカルスガルドが、ロバート・エガース監督の前作『ノースマン 導かれし復讐者』の主演だった。
34歳のビル・スカルスガルドは、オルロック伯爵の不気味な外面にもかかわらず、優美さと品格を放つ。怖さと醜さの中に美の芳香が漂ってくるようだ。
ストーリーは、エガース監督が「幼少期からともに生き、夢見てきた物語」だという吸血鬼映画の源流、1922年のサイレント映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」ほぼそのまま。エレンの夢の中に訪れる異界の存在。夫ハッターの旅立ちで起こり始める不協和音。そしてオルロック伯爵が町を訪れたが最後、カオスが浸透し始める。
映画は抑制を利かせたゆったりとしたリズムで、独特の世界が立ち上がっていく。映画監督の基本事項の制御力が効いている。ホラーの味を保ちつつ、ゴシックロマンスとしての華やかさが端正に築かれている。
ノスフェラトゥ
5月16日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2024 Focus Features LLC. All rights reserved.
PG-12
監督・脚本:ロバート・エガース (『ライトハウス』、『ノースマン 導かれし復讐者』など)
出演:ビル・スカルスガルド、ニコラス・ホルト、リリー=ローズ・デップ、
アーロン・テイラー=ジョンソン、エマ・コリン、ラルフ・アイネソン、サイモン・マクバーニー、ウィレム・デフォー ほか
製作年:2024年
製作国: アメリカ・イギリス・ハンガリー
原題『Nosferatu』