『サブスタンス』映画レビュー 周到に張り巡らされた百花繚乱

『サブスタンス』は、百花繚乱映画だ。しかも周到に張り巡らされている。なぜ百花繚乱なのか。テーマも要素も多岐に渡る。あまりにも盛りだくさんなのに、スタイリッシュかつアグレッシブに整列し快感にまで高められている。数学の美を見るようだ。

栄光と転落、美と醜さ、カオスと秩序、女を描きつつ男の真の姿があぶりだされる。飽くなき欲望とその奥の深淵。溢れだす豊穣とごくシンプルな美意識。

それが一本の映画に転写されているのは信じがたく思えた。ありったけの要素をぶちまけているのに、どこをとっても完成されている。まとめ上げる手腕は、コラリー・ファルジャ監督の自信と活力の勝利と言えるだろう。

本年度アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞 受賞、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞ノミネート第82回 ゴールデングローブ賞主演女優賞(デミ・ムーア)受賞をはじめとして、133受賞しているのも大いに納得。

『サブスタンス』のストーリーは、元トップ人気女優エリザベス(デミ・ムーア)が、50歳を超え容姿の衰えと、それによる仕事の減少から、ある新しい再生医療に手を出すところから始まる。その後の混沌の世界は想像をはるかに超える。

『サブスタンス』の勝利の第一要因は、デミ・ムーアの起用だろう。『ゴースト/ニューヨークの幻(1990)』のころは、『サブスタンス』のスー(マーガレット・クアリー)さながら、可憐で美しい愛されるトップ女優の道を走っていた。いつまでもかわい子ちゃんではいられないとばかりに、『素顔のままで』でストリッパー役に挑戦。『G.I.ジェーン』では頭を剃り、身体を鍛え上げた。イメージを払拭するための挑戦する姿勢は、『サブスタンス』の快挙の源流だろう。

ちなみにスーを演じるマーガレット・クアリーもデミ・ムーアに負けず劣らずのチャレンジ精神が旺盛なタイプだ。前作の『ドライブアウェイ・ドールズ』では、ワンナイトスタンドを繰り返すレズビアン女性を勢いよく演じていた。今や可憐で愛されるステレオタイプは生き残れない時代なのかもしれない。

(オライカート昌子)

サブスタンス
5月16日(金)より全国順次ロードショー
監督・脚本:コラリー・ファルジャ 『REVENGE リベンジ』
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
配給:ギャガ   
映倫区分:R15+ 
原題:The Substance/イギリス・フランス/142分/R-15
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