いま注目の『ライトハウス』レビュー

冷たい潮風に打たれたように銀幕にペタリと張り付く映像。

それはモノクロだ。

ほぼ正方形の画面に何やら呪いのようなものを感じる。

このスクリーンサイズは、1929年~1932年の

3年間しか使用されなかったトーキー映画初期のものらしい。

一周回って、今風なセンスを感じる。

ポラロイドカメラでモノクロ写真を撮ったようなセンスの良さ。

そこで身の毛もよだつ怪談が語られる。


昔々、ニューイングランドの孤島。

4週間にわたり灯台とその島の掃除、修繕をするために

2人の灯台守がやってくる。

ベテランのトーマス・ウェイクと、新人イーフレイム・ウィンズロー。

2人は上陸初日からそりが合わない。

険悪な雰囲気の中、絶海の孤島を襲った大嵐で、

2人は島に閉じ込められてしまう。

救助の船もやってこない。

悪運はさらに続くが、ウィンズローにはその理由が分かっていた。

船乗りの霊が宿るカモメを無残に殺してしまったからだ。

やがて2人の立場は、酒と腕力で少しずつ逆転していく。

2人の他に「何かがいるはず」、と灯台に登りたい若者ウィンズロー。

ベテランのウェイクは、「灯台日誌」を片手に、それを許さない。

ベテラン灯台守トーマス・ウェイクを演じるのは、

カルト作『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000)で、

吸血鬼ノスフェラトゥを演じたウィレム・デフォー。


スコセッシ監督の問題作『最後の誘惑』(1988)では、

ユダの裏切りを神の使命と説くキリストを演じ、物議を呼んだ。

近作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)では

心優しいモーテルの管理人で大粒の涙を誘い、数々の賞を受賞。

いま最も贔屓とする世界的名優だ。

若い灯台守イーフレイム・ウィンズローを演じるのは、

これまた『トワイライト』シリーズで吸血鬼を演じたロバート・パティンソン。

曲者デヴィッド・クローネンバーグ監督の

『コズモポリス』(2012)、『マップ・トゥ・ザ・スターズ』(2014)や

クレール・ドゥニ監督の『ハイ・ライフ』(2019)と

アート系映画にも出演が続くイケメン俳優。

快進撃が続くNetflix『悪魔はいつもそこに』(2020)では一転、

俗世の欲にまみれた汚らわしい牧師役でファンを困惑とさせた。

否、これぞ役者冥利につきるというべきだろう。

さまざまな役者名が飛び交った次期バットマン役にも決定。

2022年公開『ザ・バットマン』での存在感も期待される俳優となった。


この2人の役者について、2019年5月19日、

第72回カンヌ映画祭での『ライトハウス』プレミア上映後、

インタビューで監督がこう答えている。

「私が望む作品をつくるには、カメラの位置や事前のリハーサルなど、

すべて入念に計画を練り、準備をする必要がありました。

そうすることで、映画的な言語を正確に表現することができる。

あとは2人に任せます! それぞれ違う経験があると思うから」

『ライトハウス』の見どころはそこにある。

灯台の心臓部で同じモノを見る2人、その表情が対照的なのだ。

キョーレツとも言える顔のクローズアップが最大の見どころとなる。

デフォーは恍惚に震えるキリストの表情。

かたやパティンソンは悪魔の表情で喘ぐ。

監督の言う、「それぞれ違う経験があると思うから」の意味は

ここにあるのかもしれない。

いったい何を見たのか。灯台には何が棲むのか。


終映後、このロバート・エガース監督の前作であり

デビュー作の『ウィッチ』(2015)を再見して、お〜っ、と唸ってしまった。

映画『ウィッチ』の冒頭に映し出される制作会社のロゴマーク!

制作会社「Maiden Voyage」のイラストが灯台島を脱出する手漕ぎ船なのだ。

そこに1人の男が乗っている。

そして、そのイラストはモノクロだ。

灯台も島の形状も『ライトハウス』のそれと酷似している。

Maiden Voyage(処女航海)とは文字どおりデビュー作の意味だけなのか。

はたしてそのイラストは何を語っていたのか。

もう一つ、監督には聞きたいことがある。

『ウィッチ』も『ライトハウス』もニューイングランドの言い伝えであること。

ニューイングランド。

文字どおり、アメリカ合衆国の誕生、先駆けの地であるとともに、

民族浄化の旗のもと、先住民インディアン部族を

大虐殺した土地でもあるわけで。

この地の言い伝えで監督は私たちに何を伝えようとしているのか。

ロバート・エガース監督の新作『The Northman』も、

バイキングの「言い伝え」を基にした歴史スリラーだという。

まずは『ライトハウス』で、エガース監督の演出と

語りのセンスをじっくりと味わおうではないか。

何を伝えようとしているかは、

見終わって2、3日後に必ずやってくる。

(武茂孝志)

『ライトハウス』

2021年7月9日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督:ロバート・エガース

脚本:ロバート・エガース/マックス・エガース

撮影:ジュリアン・ブラシュケ

製作:A24

出演:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン

配給:トランスフォーマー
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