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知らない世界を知るのは映画の楽しさの一つだ。『金子差入店』は、映画でもドラマでも小説でも描かれたことのない「差入屋」を描いている。「差入屋」とは、刑務所への差し入れ代行を行う店のこと。
主人公の金子真司(丸山隆平)は収監された過去を持つ。出所した後、叔父が営んでいた差入業を引き継ぐことにした。近所の目は決して暖かいものではない。しかし、金子はなくてはならない仕事だと信じていた。ある日、近所で凄惨な事件が起き、容疑者への差入を頼まれることになる。
『東京リベンジャーズ』シリーズや『おくりびと』などの助監督を務め、『金子差入店』が長編初監督作となる古川豪監督は、助監督時代に「差入屋」の存在を知り、調べ、11年かけてオリジナル脚本を完成させた。この作品にそれだけの年月をかけたことは、一つ一つのシーンの鮮やかさや、完成度の高さに結実している。
『金子差入店』の重層的なストーリーは、欠かせないパズルのピースのように完全な形で提示されている。ヒューマンサスペンスの形を持ち、苦みと同時に、ほんわかしたファミリードラマの風味も効いている。人間の再起がテーマの一つ。それぞれの要素がピタリとはまっていて気持ちがいい。
キャストの力も大きい。登場人物ひとりひとりが欠かせない輝きを持つ。叔父の星田に寺尾聰。人間的な大きさで金子とお互いが支えあう様子が軽やかさを放つ。金子の妻を演じる真木よう子の存在は、まさに映画の核に位置している。その他のキャストも力を最大限に発揮して納得の存在感だ。
特に驚かされたのが、金子の母を演じる名取裕子のチャレンジ精神だ。まさに日本のデミ・ムーアと呼びたいぐらい。最近でも『悪い夏』などで力を見せてくれた北村匠海の役柄には絶句しかない。実は最後までその役を北村匠海が演じていたのに気づかなかった。高校生の二ノ宮佐知の役には、演技未経験の現役高校生川口茉奈。難しい役を演じ切った胆力に賛辞を贈りたい。
金子差入店
5月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
配 給:ショウゲート
©2025「金子差入店」製作委員会
キャスト・丸山隆平
真木よう子/三浦綺羅 川口真奈
北村匠海 村川絵梨 甲本雅裕 根岸季衣
岸谷五朗 名取裕子
寺尾聰
監督・脚本:古川豪
主題歌:SUPER BEAVER「まなざし」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:「金子差入店」製作委員会
製作幹事:REMOW 製作プロダクション:KADOKAWA