『FARANG/ファラン』映画レビュー 50%のクリアを目指すエクストリーム・フランスアクション

調査によれば、フランスの人口の10パーセント近くが、移民だという。出生率の違いにより、その割合はどんどん増えている。移民が登場するフランス映画が増えるのも当然だ。ラ・ジリ監督の『レ・ミゼラブル』、『バティモン5 望まれざる者』が、その代表格。

とはいえ、フランス移民のスターは数少ない。日本で知られている俳優がいるとすれば。『最強のふたり』、『あしたは最高のはじまり』のセネガル移民のオマール・シーぐらいだろう。フランス移民のアクションスターなんて、聞いたこともなかった。

ここで登場するのが、『FARANG/ファラン』のナシム・リエスだ。アルジェリア移民で元キックボクシングチャンピオン。引き締まった筋肉が光り、顔のフォルムは彫刻のよう。彼が主演している『FARANG/ファラン』は、今までフランス映画で見たことのなかった、エクストリームアクション映画だ。

『FARANG/ファラン』の監督は、『ディヴァイド』、『ヒットマン』のザビエ・ジャン。ジャンル映画で独特な異彩を放っている。今までフランスで作られたことのないリアルで悪趣味で不気味な映画を作りたかったと『FARANG/ファラン』について語っている。

主人公のサムのバックグラウンドは、映画の中では語られない。彼が移民であることがわかるのは、彼の容貌のみ。そして、刑務所からスタートすること。

サムは更生を目指す。でもそれは簡単ではなく、過去と裏社会の網が捕えて離さない。刑務所から出所しても、現実には更生できる人は50%に過ぎないという。サムは、50%をクリアできるのか。

彼の物語は飛躍する。タイが舞台へと変わる。妻のミアと連れ子のダラと、思いもよらなかった平穏な生活を手に入れていた。ホテルのポーターとしての仕事と、ムエタイのファイターとして賭け試合に出場。家族のためには、何でもする覚悟だ。

だが、その覚悟こそ、彼の50%の更生の確率を揺らがせる。同じフランス人のナロンとの出会いが、危険を呼び込む。ちなみに、タイトルの『FARANG/ファラン』とは、タイ語で外国人のこと。サムがファランとして、異国で幸せに生きることは可能なのか。

後半炸裂するアクションの鮮烈さは過激そのものだ。特にエレベーター内での連続エクストリームは、一瞬も息がつけない。サムの願いと怒りと欲求が、連続爆発していく。その勢いには身を乗り出すしかない。

監督は、『FARANG/ファラン』について、「リアルで、素晴らしく、人々に愛されるフランスのアクション映画で、海外の作品に負けないほどに悪趣味で不気味な映画」を作りたかったと語っているが、わたしはそれに、スタイリッシュで美しいというのも付け加えたい。

特に新進アクションスター、ナシム・リエスの動きと存在感には圧倒された。監督の言葉によると、ナシム・リエスに関しては、すでにアメリカのスタジオも動いているとのこと。ハリウッドアクション映画で、ナシム・リエスを目にすることも近いはずだ。

(オライカート昌子)

FARANG/ファラン
© 2022 Same Player – WTFilms – Studiocanal –
France 2 Cinema – The Ink Connection – Two Suns Productions
5月31日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ザヴィエ・ジャン『ヒットマン』『ディヴァイド』
出演:ナシム・リエス、ヴィタヤ・パンスリンガム『オンリー・ゴッド』『暁に祈れ』、オリヴィエ・グルメ『息子
のまなざし』
2022年/フランス/フランス語ほか/100分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:FARANG/字幕翻訳:大城
哲郎/配給:クロックワークス