『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』映画レビュー 変化の申し子のリアルな体温

ミステリアスかつ偉大な存在、デヴィッド・ボウイ。名前と顔は知っているけれど、それ以上はよく知らない、という人も多いだろう。私もそうだった。デヴィッド・ボウイの自由あふれた個性的な世界を、初心者もファンにも同様に、一気に近づけてくれるドキュメンタリー映画が、『デウィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』だ。

この映画の特徴は、デビッド・ボウイ財団初の公式認定映画であること。デヴィッド・ボウイ本人が保管していた映像と、本人のナレーションで構成されていること。コンサート映像、「スターマン」「チェンジズ」「スペイス・オディティ」「月世界の白昼夢」などの楽曲も、多数使われている。

デヴィッド・ボウイは、歌手、画家、俳優、アーティストといくつもの顔がある。『デウィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』は、今までつかみどころがない存在だった彼を、一気に友人レベルまで持ってきてくれる感触がある。

テーマは、”変化”だ。ファッション、作風、チャレンジすること、そして違う場所を追い求め、新しい状況が自分をどう変化させるのかを、挑戦として楽しんだ彼のあり方は、決して彼が特別だったからではない。誰もが必要なら動かなくてはならないのだから。

ファッションや哲学的・宇宙的音楽に特徴がある初期時代。苦境の真っただ中のアメリカ時代。そしてベルリン時代。壁が崩壊する前の、西ベルリンで、新しい自分を発見するためにもがく姿は、リアルな体温が、そのまま伝わってくる。

変化の結果としての「レッツ・ダンス」。最大のヒット曲であり、スーパースターなった時代。

「苦境を愛する」と豪語するデヴィッド・ボウイは、自分に正直に動き続ける。その力は映画をエネルギッシュに照らしている。

自分のあり方を知ったきっかけも話している。異父兄であるテリー・バーンズだ。テリーの影響で、ジャック・ケルアックの『路上』を読み、自分が世間から逸脱したアウトサイダーであることを自覚。テリーは軍隊へ入隊し、その後、生涯精神病院から出られなかった。自分もそうなるかもしれない。その不安こそが原動力になり、常に動き続け、変化し続けた。

『デウィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』の中では、最初の結婚・離婚は取り上げていないが、彼の最初の結婚で生まれた息子は、映画監督のダンカン・ジョーンズだ。『月に囚われた男 (2009年)』 、『ミッション: 8ミニッツ (2011年)』等SFの秀作を撮り続けている。宇宙的世界に意識を向けさせてくれたデヴィッド・ボウイの精神は、遺した作品だけでなく、息子の作品を通しつつ、まだ続いているかのようだ。

(オライカート昌子)

デウィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム
IMAX / Dolby Atmos同時公開中
ⓒ2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:パルコ ユニバーサル映画
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン『くたばれ!ハリウッド』『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』音楽:トニー・ヴィスコンティ(デヴィッド・ボウイ、T・REX、THE YELLOW MONKEYなど)音響:ポール・マッセイ『ボヘミアン・ラプソディ』『007 ノータイム・トゥ・ダイ』出演:デヴィッド・ボウイ2022年/ドイツ・アメリカ/カラー/スコープサイズ/英語/原題:MOONAGE DAYDREAM/135分/字幕:石田泰子/字幕監修:大鷹俊一配給:パルコユニバーサル映画
公式サイト:http://dbmd.jp/■Twitter&Instagram:@DBMD_JP