©2012 Mandarin Cinéma - Mars Films - France 2 Cinéma –Foz
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今年も残すところ三ヶ月を切った。ボクは現時点で今年は200本近くの作品を観てきたが、本作『危険なプロット』はおそらく年間マイベスト映画になるだろう。エンディングロールを観ながら鳥肌が立ったのは初めての経験である。もう、年内にこれを超える大傑作は出てこない、とこの場を借りて断言させていただきたい。

さて、本作は作家志望だった高校の国語教師・ジェルマンが生徒・クロードの文学的才能に気付き、それを開花させようとすることで皮肉にもお互いの生活が破綻に向かっていく、というストーリーだ。

本作を観てまっさきに感じたことは、師弟関係の美しさである。

ジェルマンは才能が開花せず作家になる夢を諦めて国語教師をやっている。一方のクロードは数学が得意で文章自体にはそんなに興味がない。しかし、ジェルマンはたまたま彼の文章を読み魅了され自分の夢を託すという形で、文章とは何か?文学とは何か?を教えるのである。

さて、以上のような経緯でジェルマンとクロードの文章講座が週に一回のペースで開始されることになるのだが、先ほど書いたようにジェルマンには才能が開花しなかった、という過去がある。開花しなかった、ということは結論を言えばそもそも『才能がなかった』ということである。

©2012 Mandarin Cinéma - Mars Films - France 2 Cinéma –Foz
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本作のもっとも面白いところは、この『才能がない師匠』と『才能がありそうな弟子』という関係性の滑稽さだ。

ジェルマンは劇中何度も『クロードには才能がある』という発言をするのだが、そもそも彼自身に才能がないのだから、この発言も怪しいのだ。この部分に着目して観ると本作は心理サスペンスの要素にコメディーの要素がミックスされた作品である、と見ることもできるのである。

しかも、ジェルマンには現代アートの画廊で働いている妻がいるのだが、何と彼女と一緒にクロードの作文を読んで論評し合い、夫婦げんかまでしているのだ。これもコミカルな場面の一つである。

弟子に振り回される師匠というのもかなり情けないが、それ以上にクロードの作文が読みたいばかりに彼は一線を超える行動をとってしまう。意外なことにこの禁じ手を使ったことで師弟関係の中に『共犯者意識』が芽生え、それが最終的にはいがみ合いながらも友情関係にまで発展していくのだ。

人は『秘密』を共有することで絆が生まれる、ということを再確認させてくれるストーリーである。とにかくボクはこの二人の関係性の美しさに鳥肌が立ってしまった。

©2012 Mandarin Cinéma - Mars Films - France 2 Cinéma –Foz
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また、ジェルマンと妻との関係が対照的に設定されている点も本作の大きなミソだろう。彼は古典文学を愛し、妻は現代アートを愛している。この時点で、すでにこの夫婦が対立する要素が十二分にあり、クロードの作文がその大きな着火点になるのだ。

しかも、現代アートの画廊に勤めている妻がまったく芸術というモノがわかっていない人物として描かれている点も現代アートに対する皮肉が感じられてニヤリとさせられるのだ。

特に衝撃的だったのは画廊に展示されている、何も描かれていない絵画である。それを彼女がジェルマンにオススメするシーンがあるのだが、その絵画にはヘッドホンが付けられていてその作品に関しての音源が入っている。彼女はそれを『これは、盗まれた絵画なのよ』というような形で説明をするのだ。

ボクは六本木・森美術館で実際にこのような作品を観たことがあり、唖然とした記憶があるのでそれを思い出し笑ってしまったのだ。

以上、見どころは数え切れないほどある。心理サスペンスなので、あえて詳細は省いたが、この大傑作を劇場公開時に見逃すと一生後悔することになるだろう。
(小野義道)
・危険なプロット レビュー オライカート昌子編

危険なプロット
2012年 フランス映画/サスペンス・ドラマ・コメディ/105分/監督:フランソワ・オゾン/出演・キャスト:ファブリス・ルキーニ クリスティン・スコット・トーマス エマニュエル・セニエ ドゥニ・メノーシェ エルンスト・ウンハウワー ジャン=フランソワ・バルメール バスティアン・ウゲットほか/配給:キノフィルムズ/R-15
10月19日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか
全国ロードショー
『危険なプロット』公式サイト http://www.dangerousplot.com/