3つの欲求は人間の宿業か?映画オマージュに満ちたオゾン監督流レシピを堪能
『危険なプロット』を見て、改めて気づいたことがある。人間にはいくつも欲求があるけれど、私のように、映画や小説やテレビドラマが大好きな人間は、特に三つの欲求に操られやすいということを。
一つ目は、続きが知りたいという欲求だ。次の日朝が早いのに、つい遅くまで小説を読みふけったり、ドラマの続きが知りたくて、どこかに情報が落ちていないかネットサーフィンをしてみたりしてしまう。
二つ目は、他人がなにをしているのか知りたい、いわばのぞき趣味的な欲求。そして三つ目が、退屈な日常から逃れたいというものだ。誰でも多少は思い当たるのではないかと思う。
『危険なプロット』は、国語教師がその三つの欲求を一度に叶える手段を発見したところからスタートする。その手段とは、ある生徒が書いた作文を読むことだった。
生徒がクラスメイトの家に家庭教師になることを口実に入り込み、徐々にその家庭に浸食していく様子を、作文はリアル・ドキュメント風に、そして続き物で書かれていた。才能あふれた文章で。続きが読みたい欲求のせいで、教師は生徒に翻弄されていく。
こう書くと、シリアス調なのかと思われるかもしれないが、さすがフランス映画。人間性に鋭く切り込みながらも、余裕とユーモアがアクセントになっている。
特に教師夫婦のやりとりは、ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマスという芸達者の二人が演じているだけだって、極上のものに出会ったような楽しさだ。
そんな快さは、皮膚をナイフでなでられるような、ザワザワ感のある不気味な感触に変わっていく。作文を書く少年は、ホラー映画の登場人物より身近なだけ、よぽっど恐ろしい行動をしているではないか。
ショッキングな描写こそないものの人間心理のダークサイドが、ひたひたと身近に忍び寄ってくるようだ。快さと楽しさと後に暗転する落差。さらに様々な映画へのオマージュを感じさせるシーンや設定があるのが、隠し味になっているのもポイント。フランソア・オゾン監督流絶妙ブレンドをお試しあれ。 (オライカート昌子)
危険なプロット
2012年 フランス映画/サスペンス・ドラマ・コメディ/105分/監督:フランソワ・オゾン/出演・キャスト:ファブリス・ルキーニ クリスティン・スコット・トーマス エマニュエル・セニエ ドゥニ・メノーシェ エルンスト・ウンハウワー ジャン=フランソワ・バルメール バスティアン・ウゲットほか/配給:キノフィルムズ/R-15
10月19日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか
全国ロードショー
『危険なプロット』公式サイト http://www.dangerousplot.com/