女が本気になると怖い。そして凄い。その事実をとことん描き尽くしたのが『ゼロダーク・サーティ』である。主演のジェシカ・チャステインも女性なら、キャスリン・ビグロー監督も女性。しかも題材は、オサマ・ビン・ラディン追跡作戦という極めて硬派なものだ。
冒頭からCIA秘密基地での拷問のシーンが描かれる。主人公のCIA分析官のマヤも、黒覆面でそこに立ち会っている。非人道的な行為に疲れた男性のリーダーが、マヤにコーヒーでも飲みに行かないか、と誘うが、彼女は「続けましょ」とリーダーを促す。
そのシーンは2003年のこと。拷問の事実が広く知られて、その後アルカイダのメンバーに対して無理やり口を開かせる行為は禁止される。そのため、マヤのビン・ラディン追跡は困難を極めることになる。映画の最終章は御存知の通り2011年のことだ。
冒頭のシーンもそうだが、常に、先に立って及び腰のCAI男性局員を引っ張っていくのはマヤの方である。その姿は執念にも見えるが、8年間もの間、目標に向かって脇目も振らずに向かっていくマヤの持つフォーカス力の強さの方が、印象に残る。
私が思ったのは、彼女の目標達成力の理由は、マヤが独身の女性で、集中力を妨げるものが少ないからではないかということ。独身の女性は、独身の男性ほど異性を求める必要もないのだろう。
結婚もしておらず、恋人いなくて、犬も飼わずに友人も職場の同僚だけという異国にいれば、仕事をするしかない。9,11の復讐のためにも、大儀にためにも。その仕事が得意でやりがいがあったなら、なおさらだ。
女性の力を侮るなかれ。もちろん、女性だけではなく、一人の力だけでもこれだけのことをやり遂げることができることに感動させられる。日頃、フォーカス力が弱くて、いろいろなことに右往左往している自分に一番語りかけたいことでもある。
キレの良さ、シーン一つ一つの隙のなさ、最後まで緊張感を持続させ、心を引き付ける出来の良さといい、素晴らしい映画なのは言うまでもない。特に、日頃目標達成力に自信ない人には最適かもしれない。(オライカート昌子)
ゼロ・ダーク・サーティ
2013年2月15日(金)よりTOHOシネマズ有楽座ほか全国公開
公式サイト http://zdt.gaga.ne.jp/