『クソ野郎と美しき世界 THE BASTARD AND THE BEAUTIFUL WORLD』が二週間限定、、全国87館の小規模公開という異例の劇場公開ながら、最終上映を前にして見れない人が続出と話題になっています。『クソ野郎と美しき世界 THE BASTARD AND THE BEAUTIFUL WORLD』がどういう映画で、どこがみどころなのでしょうか。
『クソ野郎と美しき世界 THE BASTARD AND THE BEAUTIFUL WORLD』とは
元スマップの稲垣吾郎、香取慎吾、草なぎ剛が、オムニバス形式でそれぞれ主役を張った3エピソード、最後の4番目のエピソードには三人が一緒に出演という豪華な作品です。
エピソード1は、『ピアニストを撃つな!』。稲垣吾郎さんが主演のピアニスト役。『冷たい熱帯魚』(2011)でブルーリボン作品賞を獲得し、『恋の罪』(2011)リアル鬼ごっこ (2015)など多彩な作品を送り出す園子温監督が脚本も担当。
ベートーベンのピアノ曲、熱情にあわせて、街中を疾走する挑発的なラブストーリーは、バラエティに富んだ作品にぴったりのオープニング。ピアニストに恋をするフジコを演じるのは、『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命- 』シリーズなどの馬場ふみか。さらに、満島真之介が相手の痛みを同じように感じてしまう元ボクサー。他エピソードにも絡んでくるダイモン役の浅野忠信は、重厚な存在感で作品を支えています。
エピソード2は『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』。主演の香取慎吾が演じるのは、壁を見ると、絵を描かずにいられない男。歌を失う歌手たちと、不思議な少女とのポップでミステリアスなストーリーにはわくわくさせられます。監督・脚本は、『友だちのパパが好き』()、『At the terrace テラスにて』(2016)などの山内ケンジ。
エピソード3は、『光へ、航る』。草なぎ剛、尾野真千子の演技は抜群。ダメな父親が、少女行方不明事件を意外な方法で解決していきます。時事問題を絡め、笑いと悲しみが交差する作品の監督・脚本は、爆笑問題の太田光。『バカヤロー!4 YOU!お前のことだよ』(1991)以来の監督作品ながら、全エピソードの中でも一番映画的感慨が味わえる作品となっています。
エピソード4 は『新しい詩』
各エピソードの登場人物が一堂に会した、華麗なミュージカル作品。監督は、児玉裕一。ミュージック・ビデオやCM映像作家です。
エピソード4は、問題解決編ともなっていて、今までのエピソードで描かれなかった謎の答えが披露されます。タイトルの『クソ野郎』の隠された意味も初めてわかるようになっています。
クソ野郎と美しき世界のポイント1 オムニバスとしての成功
一本の映画には、ひとつの世界観が描かれる。そういう思い込みが、まず破壊されます。質量ともにダイナミックなエピソード1、キュートでポップで夜のイメージを持ったエピソード2、広々とした田舎を舞台に、親子の濃密な関係性を感じさせるエピソード3。にぎやかで華麗なミュージカル仕立てのエピソード4。
独特の個性と世界観の違いは大きく、独立しています。。ひとつのエピソードが終わった後にさらに次にエピソードが楽しみになるぐらい、そして、それぞれが楽しめるクオリティを保っています。
クソ野郎と美しき世界のポイント2 巧みな構成、
独立したエピソードの中でひとつの隠しアイテムになっている登場人物がアノ人。各エピソードは独立していますが、最後のエピソード4で、それぞれのエピソードが違う顔を見せ始めます。そして、ふわりと全体としてのテーマが浮かび上がる構成は巧み。
クソ野郎と美しき世界のポイント3 劇場の熱気
元スマップ三人の退所後初映画作品というとことで、待ちわびていたファンを楽しませる一方、映画ファンにも満足して欲しいという心意気を感じさせる作品です。満員の映画館で、みんなが息もできないほど集中して見ているのがひしひしと感じ取れる滅多にない劇場体験となりました。
クソ野郎と美しき世界 ショートレビュー(感想)
たった二週間の限定公開というのがもったいないというのが、一番思ったこと。
エピソード1で度肝を抜かれ、エピソード2で今まで当たり前に思っていたものを失う痛みと、それを取り戻す勇気(かなりの勇気が必要だ)に励まされ、エピソード3で、悲しみと向き合う思いに切なさを感じさせられた。(この場合の失ったものはもう同じ形では、決して戻らないものだ)
エピソード4では、それぞれのエピソード後の思いが、いったんリセットされる。それは違う形に姿を変え、見ている側にエネルギーを与えてくれる。
新しいものを作るという意気込みが端々からあふれている。そういう意欲が伝わる作品は、稀だと思う。映画を見る幸せを改めて感じさせてくれる。
(オライカート昌子)