映画『シンシン/SING SING』レビュー 心の自由を獲得する方法とは

どれほど自由が制限されていようと、心を自由に遊ばせて新たな自分を発見することは可能。それが映画『シンシン/SING SING』のテーマだ。米ニューヨークで最も厳重なセキュリティが施されたシンシン刑務所での実際の出来事を映像化している。

主人公ディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)は、無実の罪で刑務所に収監されている。生活は徹底管理下にあり、不条理な扱いも受ける。尊厳を剥奪されているような気分にもなるだろう。ディヴァインGが心の自由を感じられるのは、「芸術を通じての更生」プログラム、通称RTAの活動だった。

映画『シンシン/SING SING』には、二つの軸がある。ひとつは演劇舞台を作り上げていく創作過程。もう一つは登場人物が心をつないでいく様子だ。この二つのプロセスが、より糸のように絡み合っていく。

舞台創作のストーリーは、演劇の基礎訓練から、上演品目の選定、配役、演技レッスンや新メンバーとの面談など。このプロセスも胸が躍る。様々な人が協力しあい、反発しあい、舞台を作り上げていく楽しさが伝わってくる。

登場人物同士の心がつながるストーリーは、力強さが特徴だ。映画『シンシン SING SING』では、舞台を作る過程があってこそ、友情物語の効果がさらに高まっている。演劇に身を投じるということは、自分をさらけ出し、自分の心や感情に触れ、同時に相手の心に触れることだから。

隠していた感情や感じたくないものがあったとしても、いつかはそれと向き合うことになる。シビアだけど実りあるプロセス。舞台を一緒に作り上げる仲間ならなおさらだ。共に隠しているものをさらけ出し、新たな自分を発見していく過程がお互いを支えていく。

ところで、『シンシン/SING SING』には最初見ていて違和感に近い不思議な感覚があった。俳優たちの演技力・存在感に普通の映画以上のリアル感がある。エンドロールでわかったのが、ほとんどの登場人物が、実際に自分を演じていたことだった。それが不思議な感覚の理由だった。それにしても、演技と自信が抜群過ぎた。

(オライカート昌子)

シンシン/SING SING
4 月 11 日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国順次公開
【配給】ギャガ
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監督:グレッグ・クウェダー 出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー
原題:SING SING | 2023 年 | アメリカ | カラー | ビスタ | 5.1ch | 107 分 | 字幕翻訳:風間綾平