渋谷区円山町の殺人事件とは、1997年に起きた「東電OL殺人事件」である。かつてマスコミの餌食になったこの三面記事的事件は、被害者が高学歴でエリート企業に勤めながら夜は街娼の顔を持っていたことが、人々の異常な興奮を呼んだ。この映画に登場する3人の女性も皆、2面性を持っている。
恐らく、最もノーマルなキャラクターであろう和子。彼女は冒頭の殺人事件の調査にあたる女刑事だが、家に帰れば優しい夫と娘が待っている。しかし、家族に隠れて夫の後輩と浮気をしている。
次に、本作でもっとも主人公に近い存在であるいずみ。売れっ子小説家の妻で”セレブ妻”としての生活に満足しているが、アダルトビデオ撮影のスカウトを受けたことから、心の奥に潜む性的欲望が覚醒する。
そして、いずみを導いていくのが美津子。昼はエリート助教授、夜は街娼という二重生活を送っている。物語のキーを握る人物で、いずみは彼女にどうしようもなく惹かれていく。
客観的に見て一番リアリティがないキャラクターが美津子だが、彼女こそ円山町の事件の被害者がモデルになっていると思われる。
津子を知ってからは、アブノーマルな世界に堕ちて行く自分を止められなくなる。
高額な金をしぶる客には牙を剥き、いかにもプライドが高そうな美津子は、金銭目的のために売春行為をしているのではなさそうだ。やがて、美津子の異常な家庭環境が明らかになる。いずみは、彼女の心の闇を知っても尚、自分を「女」にしてくれた彼女に付いて行こうとする。しかし、その直後に信じたくない現実に直面したことで2人の関係は大きく歪み、いずみ自身も崩壊して行く。
最初から最後まで戦慄のシーンが途切れることなく続く。怒涛のように押し寄せるエネルギッシュな映像に重ねられるのは、崇高なバロック音楽やマーラー。この選曲には、いつの時代も変わることがない普遍的な女の性を投影しているという。
因みに、本編に恋は描かれていない(と私は思う)ので、このタイトルはどういう意味なのだろうか。年々長くなっていく園子温監督の作品、本作も2時間半近いが、一切の退屈を感じることなく観られるだろう。3人の女優の渾身の演技に注目。
(池辺麻子)
恋の罪
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