『クラブ・ゼロ』映画レビュー スリルとユーモア、自己鍛錬

『クラブ・ゼロ』の表面は、透明感のあるモダニズムデザインに包まれている。襲ってくるのは、スリルと危険と自己鍛錬。そしてユーモア。

中心人物のミス・ノヴァクを演じているのは、ミア・ワシコウスカ。ミア・ワシコウスカというと、『アリス・イン・ワンダーランド』がまず真っ先に思い浮かぶ。『クラブ・ゼロ』のミス・ノヴァクも、『アリス・イン・ワンダーランド』のアリスに似ている。清澄感があり、強靭さと脆さが一線に並ぶ。カリスマ性がある。映画の芯としては絶対的。余分なものがない。『クラブ・ゼロ』の吸引力は、一にも二にもミア・ワシコウスカだ。


スイスの私立学校に若い女性が赴任してきた。彼女は少し変わった栄養学を専門としている。それは、「意識的食事」。彼女のクラスにやってきた生徒たちは、7人。それぞれ環境活動、奨学金のため、体重を減らすため、健康的な心身、マインドフルネスに近いからという希望を胸に抱いている。

若さに伴う純粋な希望と欲望。その希望は意識的な食事とどのようにかかわり、どのように彼らを変えていくのか。『クラブ・ゼロ』はスリラーと紙一重の細い道を、オリジナルティをしっかりとキープしている。

ユーモア担当は、他の教師や親たちだ。子どもたちに寄り添うというよりは、自分の生活スタイルを守ること、あるいは満喫するのに精一杯。その間、若者たちはミス・ノヴァクの絶対的存在感に感化されていく。その力に対抗する勢力は存在するのか。

シンプルでいて力強い色彩やデザイン、当惑させるシーンなどを散りばめながら、個性的なテーマを推進する監督は、オーストリア出身のジェシカ・ハウスナー監督。これまでに本作を含めた5作の長編映画がカンヌ映画祭に選出されている。今後もさらに期待がかかるのは間違いない。

(オライカート昌子)

クラブ・ゼロ
出演:ミア・ワシコウスカ、
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー撮影:マルティン・ゲシュラハト2023年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110分|原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩|配給:クロックワークス© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023