映画に求めるものが全て詰まった一点ものの魅力
爬虫類が嫌いな人でも映画が好きなら『ランゴ』を避けて通るべきではない。ジョニー・デップが好きならなおさらだ。『ランゴ』の魅力をひとことで言うなら、一点ものというところだろうか。続編でもなく、コミック原作でもない。ユニークな世界を丹念に作り上げ、しかもそこには映画愛とオマージュが散りばめられている。
『ランゴ』の舞台は現代の西部。ペットとして飼われていたカメレオンは、テレビを通してしか外の世界を知るすべはなく、それなりに平穏な楽しい生活を送っていた。ところが突然、道端に放り出されるのだ。そして英雄への道を歩き始めることになる。
初っ端から観客は、ジョニー・デップが繰り広げる会話の妙にノックアウトされてしまうだろう。なんて上手いのだろうか。さすが、スター。今までなんとなくジョニー・デップは単にかっこいいから素敵だと思っていたけど、彼の本当の魅力とは、声と語り口の上手さと動きにあったらしい。『ランゴ』を見てはじめて気がついた。
外見はそんなに重要じゃなかったのだ。それは『ランゴ』映画自体のキャラクターにも言えること。まず、主人公のランゴにしたってよっぽど爬虫類が好きでない限り、一目で好感を持つような外見ではないし、出てくるキャラクターの誰もそうではない。
それなのに、いつのまにか外見すら愛らしく思えてくる。それはキャラクターに息を吹き込んだ俳優たちの力でもあるだろうし、映画の力でもある。出てくる一人ひとりが(人間ではないが)忘れがたいほどの強い存在感で圧倒するのだ。
現実でもめったに味わえないような美しい光景が、茫漠とした砂漠の中に時折顔を出すのに驚かされた。キャラクター造詣の見事さ、気の利いたせりふ、音楽、練り上げられたストーリー、全てをこころゆくまで味わって欲しい。
ランゴ
2011年 アメリカ映画/107分/監督:ゴア・ヴァービンスキー/出演:ジョニー・デップ(ランゴ)、アイラ・フィッシャー(マメータ)、アビゲイル・ブレスリン(プリシラ)、アルフレッド・モリナ(ロードキル)、ビル・ナイ(ジェイク)ハリー・ディーン・スタントン(バルサザー)、レイ・ウィンストン(バッド・ビル)ほか。
パラマウント ピクチャーズ ジャパン配給
10月22日(土)新宿バルト9ほか全国拡大公開
公式サイトhttp://www.rango.jp/
(オライカート昌子)