『侍タイムスリッパー』の主演俳優、山口馬木也さんインタビューの3回目は、俳優が侍を演じ、侍がまた侍を演じることについて、また、主演俳優山口馬木也さんから見た、クライマックスシーンの秘話をお聞きしました。
『侍タイムスリッパー』主演 山口馬木也さんインタビュー1 ”侍”が生まれる瞬間
『侍タイムスリッパー』主演山口馬木也さんインタビュー2 侍が現代に生きていたら?
『侍タイムスリッパー』主演 山口馬木也さんインタビュー
そこにそれがある
━━この役は俳優が俳優を演じる、二重に演じるという役柄じゃないですか。そこで意識したところなどいろいろお聞きしたいです。
山口馬木也さん:それは最初に悩んだところなんです。僕は山口馬木也という人で、曲がりなりにも、高坂新左衛門を演じています。でも観ている人にとっては当たり前で、侍の姿ですよね。高坂新左衛門という人が、そこでまた演じるのです。この人は本当の侍なんですが、時代劇を演じようとしている。そこに壁があるのと、そこからさらにもう一回、斬られ役侍として演じる。
その間使っている刀は、全部竹光なんです。ペラペラの。これは竹光でやっている立ち回り、これは本当の刀を使っている立ち回り。どうすればいいかなって、最初は考えていました。けれど無理だと思って、そこにそれがある、という気持ちでやるしかないなと切り替えてやったけれど、始まる前まではああだこうだと考えていました。
始まってからは、カツラを載せてもらったり、衣装を着せてもらったりすることで、気持ちが切り替わります。今は、偽物のかつら、だったら偽物、本物の時は、ああ、今は本物。で、床山さんも、凄いビッタビッタに貼ってくれるわけなんですよ。本当に剃っている体だから。そうすると痛いんですよ。
━━痛いんですか?
山口馬木也さん:そうなんですよ、思いっきり引っ張っるから。でもその痛みを何かに変換することができるんですよ。「ああ、今は侍だ」と思うことができたり。衣装でもこの人が着ている衣装なら、過去からずっと着ている衣装。だったらこれには匂いがついているはずだ。
それでこの匂いは、侍のにおいという変換をして、これを着ているときは、「これは本物の侍」というように。あとは、気持ちかな。
━━痛みだったり、匂いだったり感覚を利用されたのですね。
山口馬木也さん:そう、利用してたかな。
頭で考えて演じるのはやめた
━━なかなか難しいですね。頭で考えて演じるというのは。
山口馬木也さん:初日に現場に行って、頭で考えるのは無理ってなったんですよ。頭で考えるものじゃないと。だって、本物のお侍さんが刀を使っている時に、これは重たいものだ、そう見せようなんて絶対考えていないわけだから。そこは信じて振るしかないんです。
だから最初の段階で切り替えました。現場に行ったら雲が出るか出ないかもわからないし、共演者がどういう言葉で、どういう温度でくるかもわからないわけだから、「もう、やーめた」と思って。考えるのはやめて、その場、その場でと。
━━凄いなと思いました。自分だったらこんがらがっちゃうなと思います。
山口馬木也さん:二次元だけの時は、こんがらがりましたけど、いざスタートしたら、全然大丈夫でした。
本気だからこそのぶつかり合い
━━番苦労したシーンはありますか。
山口馬木也さん:やっぱり、ラストの立ち回りかな。結構終盤に撮ったんですよ。監督も「こういうもの」と、もともとの考えがあって、ましてや、途中で編集して、こうだっていう画もあって。、僕は僕で、高坂新左衛門としての血が結構濃く流れ始めてきていた時期があって。相手の冨家さんも身体に浸透してきている。
清家一斗君という殺陣師の思いもあって、みんなが本気だからこそ、ぶつかるわけですよ。なんでぶつかるかと言ったら、大前提として芝居であって嘘じゃないですか。それをどう見せるかに対して、みんなそれぞれ主観があるんです。だから、ぶつかるんです。傍から見たら変ですよね、しょせん嘘をついているのに、なんでそんな熱く、語り合っているんだと。だけど、僕らの中では歯止めが効かない。喧嘩みたくなっちゃったりもしましたね。だから苦労はしたかな。監督もその辺はすごく苦労したと思います。
━━あのシーンは印象的でした。静寂の時間もすごいですし。
山口馬木也さん:刀の重みというものが、この作品のテーマであったから、映像的にも見た目的にも、刀の重みを表現できなければいけない。だけど、やっている本人たちは、それを重く見せることはやりたくない。
思いでやる。思いで、やりたい。だからそのあたりは、僕も監督も深く話し合ってこれだって思えるものに出会いました。じゃあ、そこに向かっていこうと。そうなるまでにはいろいろありましたよ。
今はすべてが美談に変わった
━━この映画を通して、ここは自分をほめてあげたいなという点はありますか?
山口馬木也さん:今となっては、苦労もすべて美談ですね。当時は話を聞いてもらったら、不平不満も出たかもしれないけれど、今はそれを通り越して美談になっていますからね。物理的なことを言うと、カツラが、痛かった。
そこはやっぱり撮影が押したり、14時間かかったりとか、思いっきり引っ張った状態でカツラをつけているから、頭から変な汁がでてきたり。
━━めちゃくちゃ痛そうですね。
山口馬木也さん:そう、取ったら水ぶくれみたいになっていて、汗みたいに水が垂れてきて。、触ったら、あたりまえのように炎症を起こしているから痛いわけです。で、明日もカツラを載せなければならない。
そんなときは床山さんが、「これはちょっと無理ですわ」と。だから、次の日は別のシーンに変えてもらったりしました。監督も時代劇というものをそこまで詳しくご存じなかったから。羽二重を引っ張ってつけて、松脂みたいなもので、つけるんですよ。
━━境目の部分ですね。
山口馬木也さん:ある程度の時間を通り越しちゃうと、限界が来ちゃう。監督は「それ、知りませんでした」と。さすがに14時間は長かったです。だから、苦労したというより、単純に痛かった。
━━他の現場というか、時代劇に慣れている現場だとそこまで長くはないんですか?
山口馬木也さん:そうですね。14時間というのはあまりなく、あっても、ここまでガチガチに頭を引っ張らない。アクションだけで来る人は、そこまでアップもないから、ある程度ゆるくつけるんです。
━━今回は主演ということもあってですか?
山口馬木也さん:本当に剃っているというのと、本当に剃っていないというのと両方やらなきゃならないんです。本当の時は、ビッチビッチにやるから。その状態で14時間。6時間待って、それから撮影でした(笑)
(取材/撮影 オライカート彩(インスタグラム))
侍タイムスリッパー
絶賛公開中
©2024 未来映画社
配給:ギャガ 未来映画社