人生の中で誤解され、のけ者にされるリスベットの体験は誰もが共感できると思う

ドラゴン・タトゥーの女来日会見の画像『ドラゴン・タトゥーの女』の来日会見が行われました。デビッド・フィンチャー監督は二年ぶりの来日で、リスベットを演じるルーニー・マーラは初来日。緊張した面持ちが初々しさを感じさせました。

『ドラゴン・タトゥーの女』の原作は、三部作で、『ドラゴン・タトゥーの女』はその一作目の映画化です。原作はスウェーデンでは人口の半数が読んだというほどの記録的ベストセラー。

スウェーデンでも映画化されており、そのスウェーデン版との違いについて、フィンチャー監督は、「スウェーデン版は一度しか見ていないので、どこがどういう風に違うのか、お答えすることは出来ません。強いて言えば、脚本がだいぶ違う。自分が実際に原作を読んだときに感じたこと、たとえば場所や人物などを忠実に描くことを心がけました」と答えていました。

リスベットを演じるルーニー・マーラさんは、第84回アカデミー主演女優賞ノミネートの熱演。その役について「リスベットについては、私自身、原作の三作を読み、大好きになりました。原作を読んだ方は同じように感じたと思うのですが、リスベットには共感を持ったし、大好きになりました。彼女のことを理解できると思ったのです。

ルーニー・マーラの画像どのように演じればいいのか自分なりに考えて、自分にも出来る、やり方がわかっていると思いました。いろんな形で彼女への共感を覚えました。ほとんどの方がそうだと思うのですが、人生の中で誤解され、のけ者にされているといった体験は、ほとんどの方が思い当たることがあると思います。若い女優にとって、このような役は滅多にあるものではありません。大きなチャンスだと思って、演じたいと思ったのです」と語りました。

リスベットのキャラクター造形について、デビッド・フィンチャー監督は、「三作の原作の中でリスベットのキャラクターはとても詳しく描かれています。ですから、一作目だけを参考にするのではなく、全ての原作を元に彼女のキャラクターを描いています。

映画の中で彼女の心の中を描くのは難しいことです。あるシチュエーションの中で、このキャラクターがどのように振舞うかを見てもらうことで、観客に彼女の思考をわかってもらう。そういうシチュエーションを考え出して、ドラマ化するのが、私の仕事です。

今回は足すのではなく全部引いて、シーンを排除していくことの方が多かったです。ふるいにかけて、彼女の光り輝く砂金のような部分を残すようにしました。彼女が何を考えているのかわかるように。つまり今回は何かをクリエイト(作り出す)というよりは、解釈したという方が正しかったのです」と語りました。

オープニングはリスベットの悪夢を描いた

原作はスウェーデン。この映画もスウェーデンで撮影されています。スウェーデンにこだわった理由について聞かれ、フィンチャー監督は、「他の町で撮影することは全く頭にありませんでした。なぜなら、原作で描かれているのはスウェーデンであり、スウェーデンという場所が醸し出す影響というのが、キャラクターにも色濃く出ています。それで彼らの行動と言うのもかなり左右されていると思うのです。スウェーデンっぽい物語だと思いましたし、他の町で置き換えることは全く考えませんでした。

本がスウェーデンをベースにしていて大変ヒットしているものですから、同じように映画もスウェーデンを舞台にしたいと思ったのです。ストックホルムという町はとても独特の外観を持っている町だと思います。地下鉄や駅など町の持つ雰囲気を映画の中に取り込むことができたと思います。

電車の路線が町をドーナツ状に取り囲んでいるのですが、それも描くことが出来ましたし、最後のシーンでのミカエルのアパート前の路上の石畳でもとても美しいシーンが撮れたと思います。スウェーデンの凍てつくような寒さも感じていただけると思います。」と語りました。

デビッド・フィンチャー監督の画像オープニングについてのアイデアを聞かれ、フィンチャー監督は、「今回は、レッド・ツェッペリンの移民の歌を使っていますが、スウェーデンをドライブしていたときにアイフォンで音楽を聴いているのですが、そこにはレッド・ツェッペリンのコレクションも入っていて、たまたまこの曲を聴いたときに、ふと思ったのが、この曲が女性のボーカルで歌われていたら、この映画の冒頭で流れたら面白いんじゃないかというインスピレーションが沸いてきたのです。それでそのまま起用しました」

『ソーシャル・ネットワーク』でビートルズを使ったのも、それいろいろ相談しながら、あの場面ではあれがパーフェクトではないかと思って使ったのです。正直、有名な曲を使うのかときかれても、なんと言っていいのかわからないのですが。『ドラゴン・タトゥーの女』では、別に最後の方でエンヤの曲も使っていて、殺人犯が殺人を犯そうとしているときなのですが、あのシーンのトーンを決めるのにとてもよい選択だと思っています。少なくとも、アバの曲よりは」と答えていました。

また、映像美に溢れるオープニングシークエンスについて、「大前提として、いい曲があったことがあったので、それをオープニングシークエンスに使おうと決めていました。そこで私は、ビジュアルアニメーターのところへ行きまして、リスベットの悪夢を映像化して欲しいと言いました。いろいろ考えてもらい、あのシークエンスができたのです。

僕の注文は、抽象的でもいい、滑稽でもいい、たとえば黒いところから黒いものがたくさん出てくるようでもいい。そして僕が使って欲しかったのが、漆です。それがにじみ出てくるような映像です。そして案としてもらったのが、八週間で75ぐらい作ってもらいました。それを25を選び、あの映像を作ったのです」と答えていました。

一週間同じシーンを撮り続けている気分だった

ルーニさんは、監督の前作『ソーシャル・ネットワーク』でも、主人公のザッカーバーグの女友達の役で出演していました。あのシーンは、100回以上テイクを撮ったということですが、今回の『ドラゴン・タトゥーの女』では、いかがでしか?という質問に、ルーニーさんは、「監督は、全てのシーンで何度も取り直しをします。ですから、私自身も数えていません。54回もあったよ、と言われたこともありますが、大体多いので、どのシーンが多いとか覚えていないんです。

デビッド・フィンチャー監督の画像『ソーシャル・ネットワーク』の冒頭のシーンは、脚本で9ページの5分間のシーンの長いシーンでした。ですから何回も取り直しをするのは当たり前だったんです。セットアップが9回あったので、それぞれ撮っても90回になります」と答えていました。

フィンチャー監督は、今回の撮影について、「特に今回は天候に左右されることが多く、それにより何回もテイクを取り直さなくてはならない場合が多かったです。特にスタントを使って、島に続く橋の上をバイクで疾走するシーンでは、それは午前4時でしたし、寒くて体感温度はさらに低く、滑らないように橋の上に塩を撒くんですが、それでも凍ってしまい、凍ったところを溶かすために火を使わなくてはならなかったり、そんな状態で撮っていたので、何回撮ったのか覚えていられません。気分的には一週間同じシーンを撮り続けているような気がしました」と答えていました。

ミカエルを演じるダニエル・クレイグさんについて聞かれ、監督は「ダニエル・クレイグはこの映画で最初にキャスティングした一人でした。絶対ミカエルは彼だと思っていました。ダニエル・クレイグはジェームズ・ボンドのイメージが強いと思いますが、私は以前から彼を知っておりまして、とても才能のある役者だということも知っていました。

ミカエルという役で私が求めたのは、まず男らしさ、次に女性といろいろ友情関係を持つというところから、女性が胸を開いて彼に相談するような男性であること、そしてウィットに富んでいるところでした。そういった点を網羅しているのは、ダニエルしかいなかったのです」と答えていました。

ルーニー・マーラさんは、「ダニエルは素晴らしかったです。才能豊かで忍耐強く、いろいろなことを教えてくれました、今回私は今までやったことのないことをいろいろやらなくてはならなかったのですが、そういった意味で共演者として彼に勝る人はいないと思います。それにとてもユーモアにも溢れていて、一緒にいて楽しい人でした」と答えていました。

原作は三部作なのですが、もし次回作が続くとしたら、またフィンチャー監督がメガホンをとってくれるのですか、という質問に対して、監督は、「それはまだわかりません。また皆様のご協力も必要です。とにかくまず、大勢の人がこの『ドラゴン・タトゥの女』作品を見てくれなければなりません。大勢(強調)の方です」と答えていました。

ドラゴン・タトゥーの女
2012年2月10日より公開中
オフィシャルサイト http://www.dragontattoo.jp/