見た後に、誰かに話したくなる映画がある。『別れる決心』はまさしくそうだった。揺れる心、驚きの結末。今まで見たことのないものだ。
『オールドボーイ』、『お嬢さん』のパク・チャヌク監督作品。今までの映画作品のトレードマークだった過激なエロチシズムや暴力を封印し、サスペンスでストーリーを引っ張りつつ、警察官と容疑者の繊細な心の揺れを丁寧に描いている。
史上最年少で警部になったまっすぐな男、ヘジュン(パク・ヘイル)が、女に出会う。山岳事故で命を落とした男の妻で、中国から来たソン・ソレ(タン・ウェイ)だ。事故に見えた上、介護士をしているソン・ソレには強力なアリバイがあった。しかし手続きを守るヘジュンは、ソン・ソレを監視することに。その過程で、ヘジュンはソン・ソレに対して、怪しむ気持ちと同時に、普段とは違う感情を抱き始める。
ミステリーサスペンスが、次第にロマンス味を帯び始める。一線は崩さない。だが、その一線とは、どこにあるのか。見ている側は、サスペンスとロマンスの絡みぐあいに酔いしれるような気分になる。
人は自分の心さえつかめないことがある。ましてや、映画の登場人物の心は、なおさらわからない。カメラとストーリーは、登場人物の心を撫でるように優しく、時に厳粛に探っていく。
色彩が、前半と後半で微妙に変化する。前半は少し目障りな濃い色彩。後半には、透明度を増していく。そして、カメラワーク。ねっとり、じっとりと変幻自在にヘジュンと、ソン・ソレの視線を映しだす。その手慣れた技が、霧の中をさまようような、心理の迷宮に誘い込んでいく。
そして、変化が来る。捜査は終結した。二人はもう会うことはないはずだった。ヘジュンは、遠距離結婚の妻のそばに勤務地を移す。だが話は終わらない。第二章は殺人事件だ。
『別れる決心』を見た後で、長い濃厚な旅を終えた気分になるかって？ とんでもない。旅は終わらない。あの”最後”を見てしまったら、永遠に心に残るだろう。タイトルの意味とともに。
『別れる決心』
第75回カンヌ国際映画祭監督賞
2月17日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2022年製作／138分／G／韓国
原題：Decision to Leave
配給：ハピネットファントム・スタジオ
© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
