『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』映画レビュー

(C)2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会
日常に隠されている、絶え間ない”if”。もし、あのときにした選択が違うものだったら、いまの現実はどうなっていただろう? それは、日常的に感じる疑問だ

その『If もしも』をシリーズ化したドラマがあった。その一作品として製作されたのが、岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか上から見るか』だ。監督の知名度を一気に押し上げ、ドラマは伝説となった。今回、それがアニメーション映画となって登場。進化した姿を見せてくれる。

アニメーションの優位を生かしているのは、CGをふんだんに使った光景。夢見がちにダイナミックに視覚を刺激してくれる。

人物は今的な、いかにものアニメ画。だが、今回は主人公の典道役に菅田将暉、ヒロインのなずな役に広瀬すずと人気俳優の二人を持ってきたことで、生身感が強い。特になずなは、一瞬アニメーションであることを忘れるぐらいだ。声だけで、あれほどの現実味を感じさせてくれるなんて、もしかしたら広瀬すずって本当に凄い女優なのかもしれない。

中学一年生の少年たちは、「打ち上げ花火は、横から見たら、丸いのか、平たいのか」を確かめるため、歩いて冒険の旅に出かける。

その光景には『スタンド・バイ・ミー』(1986)が重なって見える。さらに電車が海の上を走るところは、ジブリ映画の最大ヒット『千と千尋の神隠し』(2001)の電車のシーンを思い起こさせる。

ドラマ版の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のことは、かすかな記憶として残っているだけだが、切ない感情は今も蘇る。

映画では、1993年当時の世界がふわっと浮き上がってきて、郷愁を掻き立てられる。そのころはまだ少子化ではなく、携帯もない。未来はもっとしっかりと見通せた。今までどおりの世界が安定していたように見えた時代だ。

映画アニメーション版は、小学生ではなく中学一年生が主人公だ。今の時代は小学生が夜に歩いて出かけるなんて、あり得ないと判断されたのだろうか。こんな短期簡に世界は変わってしまった。

(オライカート昌子)

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
2017年8月18日 全国東宝系にてロードショー
公式サイト http://uchiagehanabi.jp/