長編第一作目の『第9地区』(2009)で、ふんだんなスリルと、ラストの切なさで観客の心をつかみ、アカデミー賞ノミネートという快挙を成し遂げたニール・ブロムカンプ監督。その第2長編が『エリジウム』だ。
『第9地区』で使ったのは無名のキャスト。今回は、マット・デイモンとジョディ・フォスターである。当然のことながら、アカデミー賞ノミネートというのは、相当箔がつくものらしい。
ちなみに『第9地区』の主演、やるせない演技をみせてくれたシャールト・コプリーは『エリジウム』では悪役に転身。規格外の悪辣さで大暴れをしてくれる。
第9地区は、エイリアン襲来を描きつつ、ドラマ性の見事さが際だっていた。それは、エリジウムも同じである。
ごく少数の富裕層が、地球から離れた宇宙コロニー、エリジウムに住み、ほとんどの貧民がゴミ溜めのようになった地球に住むという超格差社会。
そういう社会は『トータルリコール』(2012)や『TIME/タイム 』(2011) などでも描かれていた。最近流行の枠組みなのかもしれない。ついでに言うと、原題のElysium(エリジウム)の意味は、理想郷、楽園である。
エリジウムでは究極にまでで医療が発達し、怪我や病気を一瞬で治し、それにより永遠の若さと不死が実現されている。その技術は、エリジウムに住む一部の富裕層に独占され、さながら金本位制ならぬ医療本位制とでもいいたいような状況である。
誰でも身近な人が病や怪我に苦しんでいたら、何とかしてやりたいと思うもの。苦しむ地球の人々は、マフィアに大量の金を積み、古びたシャトルで決死のエリジウム突入を試みる。
そのあたりでドラマ性のレベルはみるみるメモリを上げていく。マット・デイモン演じるマックスは、孤児で元不良だが、まっとうな暮らしを成立させようともがいている。ところがまっとうなはずの社会は、彼を虫けらのように扱い、エリジウムを目指すほかない状況に陥れる。
切ないシチュエーションは、今回も健在だ。マット・デイモンというスターは、マックスという役で今までにないほどに輝いているように感じた。
極端な格差社会は、ニール・ブロムカンプ監督が子供のころのアパルトヘイトの南アフリカではごくふつうにみられたことなのだろう。だから、『エリジウム』には強い現実性が立ち上がる。鑑賞後時間がたてばたつほど、痛いほど心に響いてくる。
もちろんエンタメSF大作なので、アクションシーンのスタイリッシュな動きなど見ていて楽しいところもたくさんある。悪役は日本刀を振り回すし、手裏剣が乱れ飛ぶ。パシフィック・リムや、ウルヴァリンのように日本リスペクトが見られるのも嬉しい。
エリジウム
2013年 アメリカ映画/109分/監督:ニール・ブロムカンプ/出演:マット・デイモン (マックス・ダ・コスタ)、ジョディ・フォスター(デラコート高官)、シャールト・コプリー(クルーガー)、アリシー・ブラガ(フレイ)、ディエゴ・ルナ(フリオ)、ワグネル・モウラ(スパイダー)、ウィリアム・フィクトナー(ジョン・カーライル)ほか/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト http://www.elysium-movie.jp/