『種まく旅人~醪のささやき~』映画レビュー 味わう喜びの強調

日本に住んでいても、誇るべき日本について知らないことは多い。各地の名産品、それを造るためのこだわり、そこから広がる世界や取り巻く人々について、もっと知りたいと思ったのなら、映画『種まく旅人』シリーズを見ることは、解答になるかもしれない。各地の海の幸山の幸など第一次産業の応援のために企画されている。日本や地方について新たな視点を与えてくれる。

『種まく旅人~醪のささやき~』は、『種まく旅人』シリーズの“第5弾”。テーマは兵庫県・淡路島で作られる“日本酒”と酒米“山田錦”。日本酒オタクの農水省の地域調査官・神崎理恵(菊川怜)は、調査の一環として、兵庫県淡路島にある老舗酒蔵―を訪れ、泊まり込みで酒造りを調査、挑戦していく。

老舗の伝統酒造とはいえ、問題は山積。経営難、後継者不足、高齢化。そんな中、酒造蔵一の銘酒「月の船」は存続できるのか。神崎は、単なる調査官の枠を超え、こんがらがった人間関係の結び目を解きほぐし、大好きな銘酒”月の船”を守るため、全力を振り絞っていく。

利き酒バトルや、酒造りバトル、悪人登場の過程など、映画をおもしろくする要素も多く、未知だった世界にすんなり招待してくれる。『種まく旅人』シリーズの第二作目『種まく旅人~くにうみの郷~』を担当した篠原哲雄監督の手腕は確かだ。

醪(もろみ)のささやきは雨の音。という言葉とともに登場する白石加代子の独特の演技が映画のアクセント。

日本各地の銘酒の名前も登場し、酒好きにはたまらないだろう。たとえば、而今(じこん)、獺祭 (たっさい)、剣菱(けんびし)、天狗舞(てんぐまい)など。古来からの酒造りの現場体験映画でもある。日本の食はまさに宝。そして映画も宝。『種まく旅人~醪のささやき~』は、銘酒の奥深さを知る旅のような気分にさせてくれる。そして言い古された言葉だけれど、改めて「食が人を作る」ということ。酒であれ、食べ物であれ、味わうことの喜びが映画に溢れている。

種まく旅人~醪のささやき~
©2025「種まく旅人」北川オフィス
10月10日(金)より TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:アークエンタテインメント
監督:篠原哲雄 エグゼクティブプロデューサー:北川淳一           
出演:菊川怜、金子隼也、清水くるみ、朝井大智、山口いづみ、たかお鷹、白石加代子、升毅、永島敏行
製作:北川オフィス 制作プロダクション:エネット 配給:アークエンタテインメント 
©2025「種まく旅人」北川オフィス
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