『FEMME フェム』映画レビュー 究極の先行き予測不可能映画

映画『FEMME フェム』は、予測不可能なラブスリラーだ。もともとは、2021年に英国アカデミー賞にノミネートされた短編映画。それが同じ監督のサム・H・フリーマン&ン・チュンピンによって長編映画『FEMME フェム』となった。長編映画の方も英国インディペンデント映画賞の最優秀共同主演賞等、数々の賞を受賞。

華やかなドラァグクイーンとして君臨するジュールズ(ネイサン・スチュワート=ジャレット)。ステージを終え、一人で行った街角の小売店で一団の男たちと口論になった。だが、口論では済まなかった。一人対多数。ジュールズは暴力を受け、尊厳まで剥ぎ取られた。心の傷は深く、その後3ヶ月たっても再起はできなかった。家に引きこもり、ゲームをする日々。

そんなある日、やっと気力を掘り起こし外へ出かけたジュールズは、彼を襲った男たちの一人を、意外な場所で見かけた。タトゥーが目立つ。男の名はプレストン。ジュールズはプレストン(ジョージ・マッケイ)に誘いをかける。

そこから『FEMME フェム』は、究極の先行き不透明映画としての本領を発揮する。ジュールズは復讐をするのか。プレストンの本心はどこにあるのか。ジュールズはどこまで本気でやり遂げるつもりなのか。意図は見えたかと思うと薄れる。そして。消えたかと思うと再び現れる。駆け引きは精妙かつ危険だ。

ジュールズも変化する。プレストンにも表面の強面の下の薄いガラスが見えてくる。心理の柔軟性と弾力性。本心が見えないまま、駆け引きは最後まで緊張を持続させる。人間の心理の深さ危うさ柔らかさ。それを突き詰めたようなラブゲームの展開にクラクラさせられる。

脚本・監督が優れている上、主演2人の演技が並みではない。華麗なカリスマ性とともに無垢な表情を見せるジュールズ役のネイサン・スチュワート=ジャレット。プレストン役のジョージ・マッケイは2003年、映画『ピーター・パン』で子役としてデビュー。初主演作は、2019年のサム・メンデス監督の戦争映画『1917 命をかけた伝令』。レア・セドゥと共演した『けものがいる』(23)も公開予定。今後のこの二人の活躍から目が離せない。

(オライカート昌子)

FEMME フェム 
3月28日(金) 新宿シネマカリテ ほか ロードショー
© British Broadcasting Corporation and Agile Femme Limited 2022
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FEMME フェム


監督・脚本:サム・H・フリーマン、ン・チュンピン
製作:ヘイリー・ウィリアムズ&ディミトリス・ビルビリス
撮影:ジェームズ・ローズ
編集:セリーナ・マッカーサー
プロダクションデザイン:クリストファー・メルグラム
衣装:ブキ・エビエスワ
音楽:アダム・ヤノタ・ブゾウスキ
出演:ネイサン・スチュワート=ジャレット、ジョージ・マッケイ、アーロン・ヘファー
ナン、
ジョン・マクリー、アシャ・リード
2023年|イギリス|英語|98分|カラー|シネマスコープ|5.1ch|原題:FEMME
字幕翻訳:平井かおり|レイティング:R18+|配給:クロックワークス