歴史に残された謎を紐解いていく、あるいは、大胆な仮説を披露する歴史ミステリー映画ほど、ワクワクさせられるものはない。映画『梟ーフクロウー』は、歴史ミステリージャンルの映画として、後世に残る作品になるのではないかと思う。
朝鮮王朝時代の記録物<仁祖実録>(1645年)に残された歴史の断片を膨らませ、説得力と緊張感、そして質の高い人間ドラマ/サスペンスとして完成度が高い映画となっている。
最初にでてくる、<仁祖実録>では、「朝鮮に戻った王の子(世子)が、病にかかってまもなく亡くなった」と、いう文章が紹介される。その部分と、その後に続く短い文章を、いかに映画化するのか。想像力と映像は、大胆かつ、華麗だ。
主人公は、盲目の鍼医ギョンス(リュ・ジュンヨル)。『梟ーフクロウー』の最初のパートは、彼の成り上がりストーリーが描かれている。ギョンスには病気の弟がいる。だが、薬代を払うお金もない。だから、なんとしても成り上がる必要があった。ある秘密を隠しても。彼は、宮廷に医師として採用されることに成功する。
盲目の鍼医という立場は、高いアドバンテージがあった。見て見ぬふりすることが、生き残りの絶対条件の宮廷で、彼は”見えない”のだから。しかも彼の鍼医としての能力は極めて高い。
清で人質になっていた世子が、朝鮮に戻ってから、ギョンスは、世子の病を治す。そして信頼と友情を得る。そこまでが中盤だ。そのあと事件が起こる。急転直下、ほのぼのとしたリズムは、緊張感が張り巡らされたサスペンスへと姿を変え、息もできないほどのスリルが次から次へと襲い掛かってくる。
ギョンスの変化も著しい。彼の目的は、成り上がることだった。だが、もはや自分中心に考えているわけにはいかない。どこで覚悟を決めるのか。覚悟を決めた彼は、追う者であり、追われる者となる。
『梟ーフクロウー』では、悪の魅力が強烈に描かれている。ギョンスの前に悪の正体が、立ちはだかる。ギョンスと悪が対峙するシーンの凄みは、相当なものだ。しかも、そのシーンは、一度ではすまない。姿を変え、中身を変え、何度もある。後半のノンストップスリラーの密度は濃く、身を乗り出さずにはいられない。そして、ラストシーン。まるで伝説のノワール映画のような趣きなのだ。
梟ーフクロウー
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2月9日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
配給: ショウゲート
監督:アン・テジン
出演:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン
2022年/韓国/118分/原題:올빼미/英題:THE NIGHT OWL/日本語字幕:根本理恵/G/