『不都合な理想の夫婦』映画レビュー(感想)あらすじ・解説

不都合な理想の夫婦 作品解説・あらすじ

映画 不都合な理想の夫婦とは

規制撤廃により、平時におけるアメリカ市場で稀に見る長い好景気をもたらしたレーガノミックス時代、理想の生活を送る夫婦が、さらなる幸福を求めてイギリスに移住。ところが、そこでの生活は理想から徐々に離れていく、その様子をスリリングに美しく描いた心理スリラーが、『不都合な理想の夫婦』だ。

サンダンス映画祭のプレミア上映や、英国インディペンデント映画賞では6部門にノミネート、夫役に『ファンタスティック・ビースト』や『シャーロック・ホームズ』シリーズなどで大人の魅力を発揮したジュード・ロウ。妻役には、最近では『ゴーストバスターズ/アフターライフ』での演技が際立つキャリー・クーン。監督は、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で数々の受賞を獲得したショーン・ダーキン。

『不都合な理想の夫婦』あらすじ

イギリス人のビジネスマン、ローリー・オハラは、アメリカ人の妻、アリソンと二人の子供とともに、人もうらやむ生活を送っていたが、好景気が見込まれるイギリスに戻り、さらなる成功を求めようと移住を決意。

妻も全面的に納得のいかないまま、同意する。ローリーが家族に用意したのは、古びているけれど広大な敷地を持つ豪壮な屋敷。10歳の息子は私立学校へ行かせ、妻には毛皮のコートをプレゼントする。

馴染みの会社に身を寄せるが、彼にはすでに大きな構想があった。成功を目指してスタートするものの、理想的に思えた暮らしは次第にほころび始める。夫婦の間にも溝ができ始め、家族の心も離れていく。

理想と現実には大きな違いがある、理想は、こうであったらいいのに、こうでなくてはならないというような頭の中で繰り広げられるドラマだ。現実は、そんな甘い考えをアッパーカットしてしまう。映画の中では、なおさらその甘い思考への一発が強く効いてくる。

『不都合な理想の夫婦』映画レビュー

『不都合な理想の夫婦』は、人が羨むすべてを手に入れた夫婦の物語だ。時はレーガノミックスが世界を席巻した80年代。富への飽くなき欲望と狂乱が押し寄せ、夢を現実にするファンシーな世界が一部にあった。

アメリカ人の妻と、イギリス人の夫はアメリカで恵まれた生活を送っていた。緑多い瀟洒な邸宅、夫はディーラーとして成功し、妻は家で馬の調教を行い、乗馬クラスも引き受けていた。連れ子のティーンの少女は、体操を習い、二人の10歳の息子は、毎日友達とワイワイ過ごす。

それでも夫のルーニーは、それ以上の生活をしたいと望む。イギリスへ戻り、さらなる成功を追い求めたい。家族はイギリスに移住する。

ルーニーが家族に用意した家は、サリー州にある敷地も何エーカーもありそうな豪壮な屋敷。使い切れないほどの部屋、1700年代の床板、毛皮のコート、上流階級向けの私立学校。

その屋敷を見ただけで、カンのいい人は気づくだろう。何かが起こりそう、不穏な空気が立ち込めていると。屋敷もののホラー映画の設定に似ている。古くはニコール・キッドマン主演の『アザーズ』、世界がひっくり返るようなどんでん返しの良作ホラーだ。

だが、『不都合な理想の夫婦』は知的だ。不穏さも必要不可欠なちょうど良さ。夫婦や家族のファンシーな生活は崩壊していくが、適度できめ細かく、ブレがない。

超常現象など描かなくても、人間の心を描くだけでも十分怖い。怖いだけでなく、『不都合な理想の夫婦』はさっぱりとした浄化するような気持ちよさも残る。

妻がパーティで真実をポンと口に出すシーン。これはかなり衝撃だった。人にどう思われようと気にしない、どうでもいい。私は私が思うように話す。虚飾の雲が一気に晴れていくような爽快さ。

心理スリラーと爽快感。映画『不都合な理想の夫婦』は全く不都合とは無縁の理想の夫婦映画と言いたい。

(オライカート昌子)

不都合な理想の夫婦
監督・脚本 :ショーン・ダーキン
出演     :ジュード・ロウ、キャリー・クーン
2019年|イギリス|英語|107分|カラー|ビスタ|5.1ch|原題:The Nest|字幕翻訳:高山舞子 
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
Dean Rogers
https://movie.kinocinema.jp/works/thenest  
2022年4月29日より kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開

映倫区分:R15+
映倫番号:49150