『若き見知らぬ者たち』映画レビュー 爽やかさと苦しさと

『若き見知らぬ者たち』の風間彩人(磯村勇斗)を思い出すと、フッと心に風が吹く。

風間彩人は、ヒーローではないし、悪人でもない。高校時代に、サッカーの花形選手だった。今は、工場で働き、夜は、カラオケバーで働いている。

そのカラオケバーは、父親が、借金とともに残したものだ。母は難病、介護が必要。弟、壮平(福山翔大)は、総合格闘技のタイトルマッチが目前。彩人が幸福を感じる時間は、恋人、日向(岸井ゆきの)と一緒の時。

監督は、『佐々木、イン、マイマイン』が評判を集めた内山拓也監督。平成生まれの若い監督だ。見逃せない才能を感じさせる。

長いタイトル前のプロローグ(アバンタイトル)が、作品の概要とテイスト、世界観を凝縮させている。爽やかで苦しい。

俯瞰したカメラが、町の全景を映し出す。チャンピオンを目指す荘平は走り、彩人は自転車で走る。彩人は自転車に乗りながら、銃を取り出し頭を撃つ。イメージ描写だ。まだ、ストーリーは始まっていない。

プロデューサーの言葉として、「インディーズのテイストがありつつも、社会性を持ち合わせており、 エンタテインメントにもできる。そんな可能性を感じさせる脚本だった」というのを読んだ。『若き見知らぬ者たち』はその通りの作品だ。

インディーズのテイストは、絵の造り、シーン転換、時折挟まれるアート精神。エンターテイメント性は、何といっても格闘技描写。一番厄介なのが、社会性だ。強烈さで作品の印象を強く引っ張る。

『若き見知らぬ者たち』は、内田監督が実際に友人から聞いた話が、元になっているという。その事実は、ほぼ映画通り。

監督の気持ちは想像できる。聞いたが最後、忘れられない。当事者のことを、いつまでも考えてしまう。いつかはこれを形に残したい。自分ができるなら、最高の形で。

ここまで書いて、わかったのは、タイトルの、『若き見知らぬ者たち』が誰かということ。それは、監督が聞いた当事者のことであり、彩人や荘平のことであり、私たちのことだ。

人生の変わりゆく光景は誰もが共通している。そこで戦い、あきらめ、勝ち、負け、悔しさ、辛さや喜びに揺れるのも同じ。

透明で純粋な視線を持つ、内田監督作品。あなたの次回作を必ずまた見ようと思う。

(オライカート昌子)

若き見知らぬ者たち
磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太
伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良
滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか
原案・脚本・監督:内山拓也
©2024 The Young Strangers Film Partners
10月11日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
2024年製作/119分/PG12/日本・フランス・韓国・香港合作
配給:クロックスワークス