映画『エミリア・ペレス』

『エミリア・ペレス』の注目度を語るには、
昨年のカンヌ映画祭コンペティション作品を振り返るのが一番だ。

「THE APPRENTICE」(原題) アリ・アッバシ監督
悪名高きトランプ大統領を育てたロイ・コーンを描く問題作。
邦題『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

「ANORA」(原題)ショーン・ベイカー監督
娼婦アノーラ活躍の18禁ながらアカデミー賞作品賞に輝いた一作。
邦題『ANORA アノーラ』

「MEGALOPOLIS」(原題) フランシス・フォード・コッポラ監督
巨匠コッポラが私財を投じて制作したSF叙事詩的超大作。
日本公開日未定

「THE SUBSTANCE」(原題) コラリー・ファルジャ監督
デミ・ムーアが一世一代の体当たり演技で臨む傑作ホラー映画。
邦題『サブスタンス』

「KINDS OF KINDNESS」(原題)ヨルゴス・ランティモス監督
ジェシー・プレモンスがカンヌ男優賞を取った奇想天外な寓話。
邦題『憐れみの3章』

「THE GIRL WITH THE NEEDLE」(英題) マグヌス・フォン・ホーン監督
デンマーク犯罪史上最も物議を醸した連続殺人事件のモノクロ映画化。
邦題『ガール・ウィズ・ニードル』

その他、デビッド・クローネンバーグ作品、ジャ・ジャンクー作品、
ポール・シュレイダー新作や名匠パオロ・ソレンティーノ作品など

話題作目白押しの中、ひときわ喝采を呼んだのが、
「EMILIA PEREZ」(原題) ジャック・オーディアール監督
邦題『エミリア・ペレス』である。

優秀な才能をボスに利用され、不遇の日々を送っていた弁護士のリタに、
驚くべき依頼が舞い込む。
メキシコ全土を恐怖に陥れていた麻薬カルテルのボスが
「女性としての新たな人生を用意してほしい」というのだ。
リタの完璧な計画が成功し、それぞれが新たな人生をスタートさせた4年後、
元ボスはエミリア・ペレスと名乗り、リタの前に現れる。

リタを演じたのは、ハリウッド超大作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」
シリーズで広く愛されているゾーイ・サルダナ。
泣く子も黙る麻薬カルテルのボス役と
女性として生まれ変わったエミリア・ペレスを演じ分けたのは、
自身もトランジェスターとして活躍するカルラ・ソフィア・ガスコン。
ボスの妻ジェシー役として難しい役をこなすのは、
歌手としても全米の若者から絶大な人気を誇るセレーナ・ゴメスだ。

カンヌ映画祭では通常一人の女優に与えられる女優賞が、
本作に出演した4人もの主要女性陣に贈られたのだから
授賞式は大いなる歓喜に包まれたらしい。

審査員長を務めた『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督は、
「4人はそれぞれが秀でていたが、一緒になると超越していた」と
惜しみない絶賛と共にその理由をコメントした。

監督は30年に及ぶキャリアを誇り、世に送り出したすべての作品が、
国際映画祭で高く評価されてきたフランスを代表する映像作家、
ジャック・オーディアール。
カンヌ国際映画祭では、これまでに脚本賞、グランプリ、
そしてパルム・ドールを受賞し、『エミリア・ペレス』でも審査員賞に輝いた。

そんな映画史に重要かつ重厚な足跡を刻む 72歳の名匠が今回、
これまでの自身の作風を軽々と飛び越えただけでなく、
エンターテインメント界においてもかってない世界観で、
観る者を未知のステージへと誘う。

サスペンス、アクション、ヒューマンドラマをミックスし、
罪と救済、愛と憎しみ、友情と裏切り、
女性たちの連帯を描く破天荒なストーリーを、感動的にまとめ上げたのだ。

フランスの国民的シンガー、カミーユによる楽曲と、
『サスペリア』のダミアン・ジャレによる振付の力も大きく貢献している。

そう、『エミリア・ペレス』最大の驚きはミュージカル映画であることだ。

(武茂孝志)

『エミリア・ペレス』
3月28日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次公開
監替・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス
原題: EmiliaPerez/ 2024年|フランス|カラー|シネスコ|5.1ch|133分|
字幕翻訳:原田りえ
配給:ギャガ GAGA★
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