『帰れない山』映画レビュー

『帰れない山』というタイトルには意味がある。最後にやっとわかるけれど、ミステリアスで好奇心を掻き立てるタイトルだ。最後に至るまでの雄大な時間と広々とした空間、そこは、旅情と郷愁に満ちている。人の一生分の大いなる流れを十分に味あわせてくれる大作だ。

イタリア、トリノの大都会に住む一家は、北イタリア、モンテ・ローザ山麓のふもとの小さな村で夏を過ごす。一人っ子の少年、ピエトロが、村に住む唯一の少年、ブルーノと仲良しになる。彼らは同い年だ。映画の序盤は、二人が過ごす夏のまばゆい自然あふれた喜びの日々だ。

ピエトロの父は、エンジニアとして忙しい日々を送っている。唯一熱意を持って挑むものが、登山だ。

父とともに、ピエトロも山を歩く。やがて、ブルーノも加わる。ある日、氷壁にチャレンジする。子供連れには無理だと声をかけられるが、父は決行。ピエトロは高山病にかかり、頂上にたどり着くことはできなかった。

『帰れない山』は、このあとに、何十年間もの長い年月、分厚いストーリーで圧倒する。不意に別れ離れになった友達同士。だが、この後の二人の人生は、奇異なものとなる。成長し、大人になるまで、そしてさらにその先まで、交錯し、絡み合う。友情の力と親子の絆のテーマを借りながら、描き出されるのは、まさに宇宙的とも言える広がる世界だ。

原作は、イタリアの作家パオロ・コニェッティの世界的ベストセラー小説。2022年・第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。監督は、ベルギーのフェリックス・バン・ヒュルーニンゲンと、俳優のシャルロッテ・ファンデルメールシュが共同で脚本・監督を務めている。彼らは実生活でも夫婦。

人は一生の間、何を求め、何を得るのだろう。夢を潰すものの正体は何なのか。テーマは、骨太だが、小さな喜びと、悲しみが詰まった佳作だ。

帰れない山
5/5(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
© 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV –
PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.
監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ 撮影:ルーベン・インペンス
原作:「帰れない山」(著:パオロ・コニェッティ 訳:関口英子 新潮クレスト・ブックス)
出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティほか
2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/1.33:1/5.1ch/147分/原題:Le Otto Montagne/日本語字幕:関口英子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:ポイント・セット