『EO イーオー』映画レビュー

イーオーは、ロバの名前。『EO イーオー』は、ロバのイーオーを主人公としたロードムービー。シンプルな物語なのかと思うと大間違い。そこで繰り広げられるのは、豊饒そのものの香りと色彩が襲ってくる世界だ。その世界観は強烈な印象で、見ている側をノックアウトしてしまう。ポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督の作品だ。

ロバのイーオーはもちろん喋らない。ロバのイーオーを写し鏡のようにして、人間、自然、社会が表現される、こんな映画があったのかという驚きを与えてくれるだろう。

イーオーは、サーカスの動物たちの一員だった。イーオーをこよなく愛する女性カサンドラと、出し物をしていた。彼女は、イーオーに特別な思いをいだき、イーオーも大切にされているのを自覚している。だが、イーオーは、売られてしまう。そしてそこからイーオーの奇妙で興味深い旅が始まる。

最初に彼が行った先は、美しい馬たちが駆け回る牧場。イーオーは、きらびやかな馬を見つめる。彼はロバなので、スポットライトが当たることはない。そして、次の場所へ移る。

イーオーはときに逃げ出し、山脈をさまよい、街へたどり着き、捕まるときもある。予想を遥かに上回るバラエティに飛んだ旅路になっていく。

そして浮かび上がるのは、地域、地球、人間を含む、生物、広大な世界だ。単なるロバであるイーオーが出会った世界が、驚きと感慨を呼び込む。

旅する空間の広がりは、欧州をまたいで、広く深い。ポーランドから始まって、イタリアの伯爵家までたどりつく。空気感や植物、気候の変化も興味深いが、そこで出会う動物や人間の様子は、まるでいくつもの映画を見たような気分になる。

紛れ込んでイーオーが乗り込んだ長距離トラック。運転手は、旅をそれなりに楽しみ、女性に声をかけたりする、だが、その後の過酷な運命は、想像を絶する。

暴力や優しさ、愛や憧れ。あらゆる感情が、イーオーを通り過ぎていく。見ている側は、いつしか生きるもののさだめのような、雄大な俯瞰の視点を獲得していくはずだ。

EO イーオー
5月5日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー
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監督:イエジー・スコリモフスキ 
脚本・製作:エヴァ・ピアスコフスカ、イエジー・スコリモフスキ
出演:サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、イザベル・ユペール
2022/ポーランド、イタリア/カラー/ポーランド語/88分 映倫:G
後援:ポーランド広報文化センター 配給:ファインフィルムズ