ハウス・オブ・グッチ 映画レビュー

何事も変化する。『ハウス・オブ・グッチ』は、「GUCCI(グッチ)」をめぐる変化の様子を描いている。有名老舗ブランド「GUCCI(グッチ)」の創業者一族の秘められたストーリーを手掛けたのは、リドリー・スコット監督。至福の時間が味わえる作品となっている。

至福の一番の理由は、余裕だ。巨匠の技がもたらしている。まずは、舞台美術の美しさ。1970年代のイタリア、ニューヨークの空間の再現とゆとり。

長く映画界に君臨してきたアル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズなど大御所の演技と存在感の充実度。

若手には、アダム・ドライバーと、ジャレッド・レトがそれぞれの息子役で出演。この二人こそ、今現在、映画界で旋風を巻き起こしている中心だ。4人の演技は、円熟と飛躍の豊かさでうっとりさせられる。

安泰と思われた華麗なるグッチ創業一族に破滅と変化をもたらすのは、パトリツィアだ。三代目グッチ家の御曹司と結婚する女性だ。この役に、レディー・ガガを起用。映画主演は二度目だが、他の出演者の経歴と比べてみたら、違いは歴然。この取り合わせが、映画の骨組みと重なり合う。

トラック配送業の父を支えるパトリツィアは、ある日パーティで、グッチ家の御曹司、マウリツィオと出会う。美しさには自信があるパトリツィアは、マウリツィオの心を奪う。マウリツィオは、父ロドルフォの反対を押し切って、結婚に突き進むが、グッチ家を追い出されてしまう。マウリツィオをグッチ家に呼び戻そうとするのは、ロドルフォの兄、アルド。

マウリツィオは、グッチ家に戻るのには気が進まない。だが、富と名声と美の世界への渇望に駆り立てられるパトリツィアは、強引に彼をけしかける

アルドを演じるのは、アル・パチーノ。彼の第一声が日本語で、”こんにちは”。”どう?元気?”。さらに”御殿場”という単語が飛び出すとは思わなかった。美的センスこそ、兄のロドルフォには敵わないアルドだが、押しの強さと、バイタリティは抜きんでている。だが、彼の築き上げた世界にも崩壊が近づいている。

映画の半ばを境に、大変化が押し寄せてくる。変動の勢いはだれも止められない。誰もが荒波に押し流されていくが、一番変化の度合いが大きいのは、パトリツィアだ。変化をもたらしたのは彼女自身なのに。あの華麗な世界はなかったかのように、ラストパートのパトリツィアは別人のようだ。すべての虚飾が拭い去られ、欲望だけが息をしているような女になり果てる。

リドリー・スコット監督は、変化をごく自然に、押しつけがましくないペースで描いている。だからこそ、余韻が深い。

(オライカート昌子)

ハウス・オブ・グッチ
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2021年製作/159分/PG12/アメリカ
原題:House of Gucci
配給:東宝東和