『極主夫道 ザ・シネマ』映画レビュー

楽しい映画を見たい! 映画を見て、いい気分になりたいなら、今一番、お勧めなのが、『極主夫道 ザ・シネマ』かもしれない。おすすめしたい理由は、うっとおしい夏の蒸し暑さを吹き飛ばす”お祭りムービー”的なノリだ。

『極主夫道 ザ・シネマ』は、ごく普通の極道映画にありがちな、”オトコの生き様”的生真面目さを、”主夫の生き様”のお気楽さとして上書きしているところが実に楽しい。

おおのこうすけのコミックが原作。テレビドラマとしても人気を博し、今回はザ・ムービーならぬ、ザ・シネマとして映画化。華やか、かつ笑いと人情満載の祝祭的映画として登場。

主人公の黒田龍は、かつて「不死身の龍」と恐れられていた。極道の世界から足を洗ったのは、結婚がきっかけ。今や平和なベッドタウンで専業主夫としての仕事に全霊を捧げている。そんな彼の幸せな生活に立ちふさがったのは、地上げ屋一味。それと彼の家の玄関前に置き去りにされていた男児。男児と地上げ屋の攻撃に、龍は独自の方法で立ち向かっていく。

のっけから暴力シーンが全開。ただし、その敵の設定が凄い。誰しも(特に主夫/主婦)納得する。その相手ならどんな暴力も正当化できるよ~とうなずいてしまう相手を出してきてくれる。

次に来る”みかじめ料?!”取り立てシーンも最高だ。こうなんだろうという思い込み期待をうまーく裏切ってくれる面白さが、この映画のキモで、それは最後の最後まで持続する。

極道映画の定石を超越して遊んでしまうところが上手い。知らぬ間に溜まってしまった”思い込み”というゴミをきれいに掃除してくれるような感覚がある。

最終的には、平和で穏やかで人情豊かな心持ちが残る。難がないとは言えないけれど、十分以上に楽しませてくれる。

難というのは、やたら『男たちの挽歌』的なスローモーションの挿入に代表されるうざったさだ。スローモーションが、かっこいいのは、それがいざというときに使われる時だけなわけだが、それも逆にしているんだろう。つまり、スローモーションシーンの大安売りで、カッコよさを笑いに変えるという逆転発想の技なわけだ。

(オライカート昌子)

極主夫道 ザ・シネマ
(C)2022「極主夫道 ザ・シネマ」製作委員会
2022年製作/117分/G/日本
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント