『グッバイ・クルエル・ワールド』映画レビュー

2022年の映画界は、3年前と比べると様変わりしている。映画館に人が集まりにくい。公開される作品の数が少ない。世界的な現象でもある。

そんな中でも、日本映画は比較的元気に思える。以前なら他の映画に埋もれていたいい映画に出会いやすい。幸せな映画の世界もちゃんと存在していることを思い出させてくれる。

『グッバイ・クルエル・ワールド』も、そういう意味で、特別な映画の一本だ。単なる、血みどろバイオレンスアクションというには、繊細な美しさと雑然さの混在が堂々とスクリーンを埋め尽くす。

ちなみに「goodbye-cruel-world」とは、「さよなら、残酷な世界」という意味で、1984年に発表されたエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのアルバムの名前でもある。

冒頭、覆面を被った一団が、現金強奪する。その場面に軽快に流れるのは、ボビー・ウーマックの曲、「What Is This」だ。何がどうなっているのか、あれよあれよとみているうちに、それぞれ金が欲しい寄せ集まりの集団であることがわかる。

ハマってしまった泥沼から抜け出したい若い女性、別れた家族とやり直すためにどうしても金が要る男、自分をコケにした汚い世界にやり返したい老年の男など。

問題は、彼らが襲ったのが、決してバレることのないはずのヤクザが金を洗っている現場だったことだ。ヤクザは、何としても襲撃者たちを見つけ、落とし前をつけたいと狙ってくる。さらに、ヤクザを手助けするのは、やり手の刑事だ。

こんなはずじゃなかった。そういうことが多発的に起こっていく。印象深いシーンとともに。

監督は『星の子』、『MOTHER マザー』、『まほろ駅前狂騒曲』、『まほろ駅前多田便利軒』などの大森立嗣。この監督、今まで作品を意識してみたことがなかったけれど、『グッバイ・クルエル・ワールド』を見ると、もう一度他作品を見たくなった。『グッバイ・クルエル・ワール』はそのぐらい、個性を感じさせる作品だ。

前半は、スクリーンの色が粗い。それが途中から妙に透明感を帯びてくる。映画の飛躍度が高い。

興味をそそるストーリー、底光りする俳優陣。だけど、それだけではなく、陰に隠れた世界が次第に立ち上がっていくところが極めつけだ。これこそ、いわゆる作家性なのだろうか。だが、作家性云々というような気負いは感じられない。社会の変化など、どこ吹く風というような独立した豊かな世界観が豊かだ。ラストは、ハッピーエンド、バッドエンドから離れた爽快感がある。

(オライカート昌子)

グッバイ・クルエル・ワールド
9月9日(金)全国公開
(C)2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会

出演:⻄島秀俊 斎藤工 宮沢氷魚 玉城ティナ 宮川大輔 大森南朋 / 三浦友和
奥野瑛太 片岡礼子 螢 雪次朗 モロ師岡 前田旺志郎 若林時英 ⻘木柚 / 奥田瑛二 鶴見辰吾
監督:大森立嗣
脚本:高田亮
オープニング曲:「What Is This」Bobby Womack(Universal Music)
劇中曲:「Letʼs Stay Together」Margie Joseph(Warner Music Japan)
「Back In Your Arms」Wilson Pickett(Warner Music Japan)
エンディング曲:「California Dreaminʼ」Bobby Womack(Universal Music)
製作:小⻄啓介 森田圭 甲斐真樹 小川悦司 田中祐介 石田勇 前信介 山本正典 檜原麻希 水戶部晃
企画・プロデューサー:甲斐真樹
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ スタイルジャム 制作プロダクション:スタイルジャム ハピネットファントム・スタジオ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
レーティング:R-15 ©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/gcw/