『峠 最後のサムライ』映画レビュー

峠 最後のサムライとは

幕末に活躍した長岡藩の家老、河井継之助を描いた司馬遼太郎の『峠』を映画化。主演に「孤狼の血」「すばらしき世界」などの役所広司。共演は松たか子、香川京子、田中泯、永山絢斗、仲代達矢。監督は「雨あがる」「蜩ノ記」の小泉堯史が手掛けた。

大政奉還が慶応3年(1867年)に行われ、江戸幕府は終焉を迎えた、諸藩は東軍(旧幕府軍)と西軍(新政府軍)に二分されていく。慶応4年、ついに戊辰戦争が始まる中、越後の小藩、長岡藩の家老・河井継之助は、どちらの軍にも属さない武装中立を目指し、近代兵器の購入を進めながらも、民の暮らしを守るために戦争を回避しようと尽力する。

『峠 最後のサムライ』映画レビュー

面白い映画、変わった映画も良いけれど、体験として心にしみわたる映画の味は格別だ。戊辰戦争で名を残した長岡藩の家老、河合継之助の一年を描いたこの作品は、その筆頭と言える。

『峠 最後のサムライ』は、徳川慶喜の大政奉還宣言のシーンからスタートし、ラストシーンでは炎が燃え盛る。この作品、その炎描写に至る過程を、じっくりと描いていく。

歴史を知っている人から見れば、結果として幕府側についた河合継之助を主人公とした映画の流れは、あらかた予測がつくだろう。新選組のように、歴史の波にあらがう側ということだから。

だが、最初は河合継之助(役所広司)は、幕府側、官軍側のどちらにもつかない。越後長岡藩の中立と独立という夢想の実現を図るからだ。それが藩の人々の平和のための唯一の策だから。

「平和を志す」という言葉は耳に心地よい。だが、それを実現するには、誇りやエゴや自身の欲望などをことごとく捨て去らなければならない。捨てたからと言って、平和が実現するとも限らない。動乱の時期である歴史の転換点なら、なおさらだ。

それでもやる。それが、サムライの真髄だ。その潔さ、澄み渡ったまっすぐの心がこの映画の核だ。サムライとはどのようなものか、生の在り方、きっと今も私たちの心のどこかに根付いているはずのそれが、心をグッと刺激する。

このサムライ的生き方は、禅の心にも通じる。このことを、映画はいろいろなシーンで語る。

妻のおまつが継之助の髭を剃るシーン、やすらぎをもたらすオルゴールの音色。スクリーンから喜びが溢れだす芸者を揚げるシーン、盆踊り。

戦争映画としての知略謀略を尽くした対決シーンも一種の見どころではあるけれど、サムライの心をきっちりと描き、その体験としての価値が、『峠 最後のサムライ』一番のみどころではないかと思う。

(オライカート昌子)

峠 最後のサムライ
(C)2020「峠 最後のサムライ」製作委員会
2022年製作/114分/G/日本
配給:松竹、アスミック・エース