マイケル・ジャクソン然り、スーパー・スターには奇行が付き物だ。
エルヴィス・プレスリーも同様か。
1970年クリスマス前、ホワイトハウスのニクソン大統領を電撃訪問していた。
そこで赤狩りの如く、人気絶頂だったビートルズの国外追放を提案し、
自らを麻薬取締局の潜入捜査官としてライセンス・バッジを要求している。
この奇行は、2016年アメリカ公開『エルヴィス&ニクソン』で描かれ、
それぞれをマイケル・シャノンとケヴィン・スペイシーが演じている。
真相は明らかではないが、映画の終わりで実物ふたりが
大統領執務室でにこやかに握手する写真が映し出されて終わる。
この写真は、アメリカの国立公文書館に所蔵されているというから
まんざらフィクションではなさそうだ。
この映画、日本ではアマゾン Prime Videoで観賞できるので是非。
副題には、ご丁寧に「写真に隠された真実」とある。
さて、映画『エルヴィス』に話を移そう。
この映画の最大の発見は、スーパー・スター「エルヴィス」が
生涯にわたってなぜ国外コンサートに、出来なかったか! にある。
その理由が次第に明らかとなってくる映画の後半がひとつの見せ場となる。
とはいえ、見る者をハイテンションに沸騰させるのは、
やはりエルヴィスのエネルギッシュなステージだろう。
奇抜なヘアスタイルと衣装で当時の観客の度肝を抜き、
他の誰もが真似できない圧倒的な歌唱力とセンセーショナルな
パフォーマンスを披露する青年エルヴィス・プレスリー。
若者を熱狂させ、瞬く間に時代のカリスマとなった彼は、
一方で中傷の的になり、警察の監視下に置かれてしまう。
封建的な時代にロックンロール魂で立ち向かったエルヴィスは
なぜ、42歳という若さで世を去ってしまったのか。
スーパー・スター、エルヴィスの波乱万丈な生き様を、
数々の名曲で彩られた圧倒的なライブ・パフォーマンスで描く本作で
エルヴィスという伝説の“真実の物語”が明らかにされていく。
ほぼ全編に渡り吹き替えなしでエルヴィスになりきり、
歌唱とダンスを行うという難役に大抜擢されたのは、
オースティン・バトラー、30歳。
約3年を費やしてボーカル・トレーニングや役作りに励んだ
オースティンの演技は、エルヴィス・プレスリー の
元妻プリシラ・プレスリーに「エルヴィスそのもの」と言わしめるほど。
圧倒的な歌唱力はもちろん、なにげない動作までもが、
まるでエルヴィスのようなパフォーマンスという。
エルヴィスの動きの振り付けは、『ボヘミアン・ラプソディ』で
ラミ・マレックにフレディ・マーキュリーを完コピさせた
ポリー・ベネットが担当。
なるほど、さすがだ。
監督は、2001年『ムーラン・ルージュ』を手がけたバズ・ラーマン。
もちろんここでもバズ・ラーマン節が炸裂している。
シンメトリーされたギンギラ指輪の絵図らがぐるりと形を変えていく
タイトルバックはこれまた『ムーラン・ルージュ』を彷彿とさせる。
まるでサーカスだ。
サーカスのように絢爛豪華だ。
がしかし、、、観客を熱狂させながら、
いつの間にやらエルヴィスが、サーカスの綱渡り状態であることに
ハッとさせられ息を飲む。
「アメリカの良心」の異名を持つオスカー俳優トム・ハンクスも巧い!
彼にとって初の憎まれ役だろう。
エルヴィスを洗脳する悪徳マネージャー、トム・パーカー役。
このふたりのやりとりは、次回アカデミー賞を賑わすかもしれない。
事実、「もし今年前半でアカデミー賞を決めるなら、
まずはオースティン・バトラーが主演男優賞を獲得するだろう」と予想する
アメリカのエンタメ誌もあるほどだ。
『エルヴィス』は、映画館でこそ真価を発揮する映画。
だから、ドルビーシネマ、IMAX®、ドルビーアトモス、DTS-X、Screen Xで
上映される。
映画館がコンサート会場になる。
映画の終盤、「エルヴィスはもういません」とアナウンスが流れる。
「エルヴィスは建物を出た(Elvis has left the building)」というのは、
英語の慣用句で、エルヴィス・プレスリーのコンサートが終わっても、
会場を去らない観客に向かって、「もう帰って欲しい」という意味で
放たれた言葉。
それが転じて「楽しいことは終わった」というような
ニュアンスで使われる。
こうして、映画『エルヴィス』は幕を閉じる。
余情は数日残るだろう。
『エルヴィス』
7月1日(金)ROADSHOW
ワーナー・ブラザース映画
上映時間:159分
スコープサイズ/2D/IMAX 2D/ドルビーシネマ 2D/
5.1chリニアPCM+ドルビーサラウンド7.1ch+
ドルビーアトモス+DTS:X(一部劇場にて)
字幕:石田泰子/字幕監修:湯川れい子
映倫区分:G
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