
映画「愛されなくても別に」は、タイトルにインパクトがあって惹きつけられた。投げやりで寂しげなイメージ。ところが実際は投げやりでも寂しげでもない。背筋がスッと伸びる映画だ。タイトルに意味を見つけることで、不幸にがんじがらめにされている人にはピリリとした刺激を与えてくれるような気がする。
誰よりも自分は不幸だと思っていたのは、主人公の19歳の大学生宮田陽彩(南沙良)だ。うつむきがちで顔を見せてくれるまで時間がかかる。見えても表情が固い。声にも元気がない。アルバイトを掛け持ちして、家でも掃除や洗濯食事の用意までしている。時間がない。友達もいない。
そこにアルバイト先の同僚、江永(馬場ふみか)について噂話が耳に入ってきた。江永と付き合うのはやめたほうがいいよと言われ、宮田は永に江永に興味を持ち、話しかけることにした。ちゃんと話してみると江永の不幸のレベルは宮田の比ではない。それなのに江永はゆったりとしていて自然体なのだ。
宮田も江永も、表情の変化をほとんど見せない。にもかかわらず魅力的。それが映画の底力に直結している。内面の変化に従って魅力の総量も増えてくる。頑なな心が緩むように、水の流れと風のゆらぎとかすかな光の描写が二人の背後に流れ始めるのが象徴的だ。
愛されようとして愛されるわけでもないし、愛されなくてよくても愛されることもある。そしてそれって不幸とも幸福とも無関係ないのかもしれない。不幸という言葉に縛られれた状況からの高らかな解放は繊細な空気感でそっと置かれる。
「響け!ユーフォニアム」で知られる小説家・武田綾乃の同名小説の映画化。1996年生まれの井樫彩監督が脚本も手掛けた。シャープな会話も心地よい。個人的には熱帯魚の扱い方がポイントだった気がする。
愛されなくても別に
7月4日(金)全国公開
配給: カルチュア・パブリッシャーズ
Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会
出演:南沙良 馬場ふみか
本田望結 基俊介 (IMP.) 伊島空 池津祥子 河井青葉
監督:井樫彩 原作:武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社文庫)
脚本:井樫彩/イ・ナウォン
主題歌:hockrockb「プレゼント交換」(TOY’S FACTORY)
企画・プロデュース:佐藤慎太朗
製作幹事・制作プロダクション:murmur
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
Ⓒ武田綾乃/講談社 Ⓒ2025 映画「愛されなくても別に」製作委員会
公式HP:aisare-betsuni.com 公式X&Instagram:@aisare_betsuni