『中山教頭の人生テスト』映画レビュー 等身大の成長日記

学校、家庭、仕事。あたりまえの生活をじっくり描いた映画に惹かれる。『中山教頭の人生テスト』はそういう映画だった。奥行きと丁寧さが格別だ。山梨県の小学校を舞台にし、中山教頭(渋川清彦)と触れ合う人々の日々が描かれる。大人と子どもの成長が描かれると同時に、人生の秘密を明かしていく。

『中山教頭の人生テスト』は『教誨師(きょうかいし)/2018』の佐向大監督のオリジナルストーリー。主人公の中山教頭を演じるのは、渋川清彦。1998年に『ポルノスター』で俳優デビューを果たし2024年公開の『夜明けのすべて』や『箱男』での妙演も記憶に新しい。『中山教頭の人生テスト』の教頭役では、流されやすく、真面目だけど頼りない。等身大。あまり目立たたないけれど、見えない力でみんなを支えているタイプ。

30年教職についていた中山教頭は、次から次へと飛び込んでくる仕事をこなすのが精一杯。ひたすらコツコツとこなしていく。家では高校生の娘と二人暮らし。朝の自転車通勤で、近所の人と朝の挨拶をかわす。学校に着いてからはほかの職員がやってくるころには、花壇の前で花に水をやっている。最後の見回りまで学校で仕事をし、家に帰り着くとさらに勉強。校長テストにチャレンジしようとしていた。そんなある日、教員不足のため久しぶりに教壇に立つことに。

子どもたちにも大人たちにも問題はたくさんある。中山教頭は自分の前にある問題を自分なりに答えを導き出そうとする。正解かどうかなんてわからない。ずっとあとまでわからないままだろう。ゆっくりじっくりと向き合う時間が愛おしさに変わっていく。次第に毎日が深まり、花開くように周囲に影響を及ぼしながら成長していく過程がゆったりとして温かい。

『中山教頭の人生テスト』で感じるのは、歳に関係なく成長はあるということ。中山教頭の例でいえば、生徒の問題が発生した時の保護者集会での姿だった。教育長の助言もあってのことだけど、新しい姿はあまりにもまぶしかった。

(オライカート昌子)

『中山教頭の人生テスト』
6月20日(金)より、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
配給:ライツキューブ 
(c)2025映画『中山教頭の人生テスト』製作委員会
脚本・監督:佐向大
出演:渋川清彦、高野志穂、希咲うみ、渡部秀、高橋努、風間杜夫 / 石田えり