『ゴヤの名画と優しい泥棒』を楽しむ基礎知識!あらすじと映画レビュー

『ゴヤの名画と優しい泥棒』を楽しむ基礎知識

『ゴヤの名画と優しい泥棒』とは

1961年に起きたゴヤの名画「ウェリントン公爵』盗難事件を、「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督が描いています。ユーモアと家族の絆、時代背景や義賊を思わせる犯人像、一般には知られていない驚愕の真相までじっくりと描き、温かみのある作品となっています。主人公ケンプトン役を「アイリス」のジム・ブロードベント、妻のドロシー役を「クィーン」のヘレン・ミレンが奥行きの深い演技を見せてくれます。フィオン・ホワイトヘッド、マシュー・グードも登場。

『ゴヤの名画と優しい泥棒』あらすじ

1961年、イギリスロンドンの有名な美術館、ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画、『ウェリントン侯爵』が盗まれた。当局は、国際的犯罪集団ではないかと捜査していたが、60歳のケンプトン・バントンから手紙が届く。彼は、ニューキャッスルで、妻とやさしい息子とささやかな暮らしをしていたが、テレビの公共放送(BBC)の受信料を貧しい老人も徴収されることを苦々しく思っていた。それが犯罪の動機となる。しかし真相は驚くべきものだった

『ゴヤの名画と優しい泥棒』を楽しむための基礎知識

ゴヤの『ウェリントン侯爵』盗難事件とは

フランシスコ・デ・ゴヤ(1746年3月30日 – 1828年4月16日)
スペインの画家。ディエゴ・ベラスケスとともにスペイン最大の画家と呼ばれ、宮廷画家として活躍。代表作に
我が子を食らうサトゥルヌス 「黒い絵」連作の一部
着衣のマハ(1797年-1803年頃、プラド美術館蔵)
裸のマハ(1797年-1800年頃、プラド美術館蔵)
など。

ゴヤが描いた『ウェリントン侯爵』は、半島戦争の後期に初代ウェリントン公爵となったイギリスの将軍アーサー・ウェルズリーの肖像画。

ウェリントン公爵は、本作を含むスペインのさまざまな美術品をイギリスに持ち帰り、そのほとんどが公爵のロンドンにおける邸宅であったアプスリー・ハウスに今も所蔵されている。

ゴヤが描いた『ウェリントン侯爵』は、義妹に贈られたが、後を引き継いだ第11代リーズ公爵により、サザビーズに売り立てされ、1961年に ニューヨークの収集家チャールズ・ライツマンが、140,000ポンドで落札する。

イギリスは、巨匠の手になる国家の英雄の肖像を国外流出させてはならない、と、ウォルフソン財団が提供した100,000ポンドに加え、政府から臨時の国庫補助金40,000ポンドを引き出し、落札価格と同額を準備、ライツマンから本作を購入することに成功。

1961年8月2日、ロンドンにあるナショナル・ギャラリーにて初めて展示された。ところが、19日後の1961年8月21日に盗まれてしまう。

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『ゴヤの名画と優しい泥棒』映画レビュー

ユーモアと心温まる家族の絆
『ゴヤの名画と優しい泥棒』は犯罪実話映画だ。社会的問題も描かれている。なのに、心が和む。ユーモアもふんだんにある。歴史的観点からも興味を引く。

場所はイギリス、時は1961年。裁判所のシーンからスタートする。ロンドン・ナショナル・ギャラリーから、ゴヤの名画、『ウェリントン侯爵』が盗まれた。被告とされたのは60代の元タクシー運転手、ケンプトン・バントン。戯曲も書いては、テレビ局に送っている。

彼は高らかに無罪を表明する。はたして、彼は無罪となったのか、一般には公にされていない驚きの真相も最後に明かされる。

ケンプトン・バントンは、志を持っている。本人は、ロビン・フッドと言っているが、ルパン三世的だ。素人なのに、国際犯罪集団顔負けの鮮やかさで、億単位の価値ある美術品奪取を試みるのだから。

犯罪や志だけでなく、家族のストーリーとして見ても、温かい気分に包まれる。当てにできない上に、何やら不審なことをしている夫を見守る妻は、上流階級の家の掃除婦だ。ヘレン・ミレンが演じている。

一見お金に恵まれているわけではないけれど、幸せな家族に見える。この家族にも悲劇があった、娘を事故で失っていたのだ。でも、この事実をしっかり受け止める覚悟も時間も足りていない。それでもなお、残された家族でできる限り幸せをつかもうとする姿から温かさが漂ってくる。、

監督は『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェル。監督の持ち味なのだろうか、真面目だけれど、細部への丁寧なまなざしが伝わってくる。映画にゆとりが散りばめられている。

『ノッティングヒルの恋人』では、映画のおかげでノッテング・ヒルがロンドン観光地になったように、『ゴヤの名画と優しい泥棒』のせいで、1961年という年が、タイムトラベルをしたように特別に感じられるようになるのではないだろうか。

(オライカート昌子)

ゴヤの名画と優しい泥棒
2022年2月25日(金)より
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
2020年製作/95分/G/イギリス
原題:The Duke
配給:ハピネットファントム・スタジオ