『ウェルカム トゥ ダリ』解説 映画レビュー 本物のダリランドへの宝の地図を探せ

『ウェルカム トゥ ダリ』解説

『ウェルカム トゥ ダリ』とは

20世紀を代表する芸術家、サルバトール・ダリの姿を、70年代のポップカルチャー黄金期のニューヨーク、故郷のスペイン、ポルト・リガトを舞台に真の姿を描き切る。監督は、『アメリカン・サイコ』のメアリー・ハロン。

サルバトール・ダリを演じるのは、オスカー俳優のベン・キングズレー。彼のアシスタントとなり、彼の世界に足を踏み入れる青年、ジェームズ役には本作が長編映画デビュー作となるクリストファー・ブライニー。ダリの妻のガラ役に、『ふたつの部屋、ふたつの暮らし』のバルバラ・スコヴァ。そして若き日のダリ役に、『ザ・フラッシュ』のエズラ・ミラー。

サルバトール・ダリとは


1904年ペイン カタルーニャ地方 フィゲーラスで、裕福な公証人の家に生まれ、1989年、84歳で没。1925年、バルセロナのダルマウ画廊にて初個展。パブロ・ピカソ、ジョアン・ミロに評価された。

1929年、スペインの映画監督ルイス・ブニュエルと映画『アンダルシアの犬』を公開。この映画を絶賛したシュルレアリスト・グループへの参加を認められる。そして、同じグループにいたポール・エリュアールの妻であるガラ・エリュアールと恋に落ち、結婚。
柔らかい時計や変形した肉体など、常識を破壊する画期的な作品で人々の心を揺さぶり、人気と名声を獲得した。初期の代表作の『記憶の固執(1931)』のインスピレーションの瞬間が、『ウェルカム トゥ ダリ』でも描かれる。

『ウェルカム トゥ ダリ』映画レビュー 本物のダリランドへの宝の地図を探せ


人生には美が必要だ。画家やアーティストの映画は、その単純な事実を思い出させてくれる。

『ウェルカム トゥ ダリ』は、シュールリアリズム(超現実主義)の画家、サルバドール・ダリが住む場所に招いてくれる。そこでは、祝祭的なパーティが開かれている。華やかで混沌、悦楽的な饗宴の世界だ。肌も露な美女や青年、コカインやアルコール、酔いと誘惑。

画廊で働き始めたジェームズは、ダリランドに一歩足を踏み入れた。時は1974年。ニューヨーク。若く美しい青年だったことが理由で、一時的にダリのアシスタントとし働くことになったのだ。

ダリは、天才画家であり有名人。普通だったら近くで接する機会がないような人物。ジェームズの前に、徐々に表面とは違ったダリの素顔が、おぼろげに見えてくる。それは、エキサイティングな探索でもあった。人の心と人生、個人的な体験、その人にしか見えない世界がやがて姿を現してくる。

超現実なダリの作品は、魅惑的だが、わかりにくい。逆に、ダリのトレードマークの口ひげや、華やかで変わった有名人としての姿は、わかりやすい上に目立つ。一種のマーケティング手法のように。

繊細で小心、美に対して誠実に向き合う素顔を、”ダリ風”な生き方で、覆い隠しているのか。それとも強調しているのだろうか。

ダリのように、独特の世界を内に持つ人は、数は少なくてもいないわけではない。彼らは、ほかの人には見えないものを見て、それを表現することにこだわりを持つ。そのままでは、有名人にもならなければ、画家としての成功にも届かないわけなのだけれど。

ダリにとって必要だったのは、ガラという妻の存在だった。ガラは、ダリの芸術性を信じ、自由にさせた。彼を守り、彼を助けた。ダリは言う。「ガラがいなかったら、私は病人か浮浪者になっていただろう」

『ウェルカム トゥ ダリ』は、ダリとガラの風変わりで、強く結びついた関係を中心に描いている。同時に、浮かび上がるダリの心象世界も引力を感じさせる。そちらの方はそれほどはっきりとは見えてこない。ダリの美術作品のトリックのようだ。表面的なダリランドは、鮮やかで、ざわついている。その奥にある本物のダリランドは、静謐で清浄で孤高な美の中にある。しかも隠されている。

本物のダリランドへの地図の目印の一つは、”ガラの背中”。そしてもう一つは、”風の指揮”。この二つのシーンには、ハッとさせられた。隠された美は、どこにでも見つけられる。必要なのは、見るものに対して敬意を持つ心なのだろうか。人生に必要な美を探す目。それを忘れずに持ち続ける力を、『ウェルカム トゥ ダリ』はひっそりと提示してくれる。

(オライカート昌子)

ウェルカム トゥ ダリ
9/1(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
配給:キノフィルムズ
© 2022 SIR REEL LIMITED 
監督:
メアリー・ハロン(『アメリカン・サイコ』) 
出演:
ベン・キングズレー バルバラ・スコヴァ クリストファー・ブライニー ルパート・グレイヴス アレクサンダー・ベイヤー 
アンドレア・ペジック withスキ・ウォーターハウス andエズラ・ミラー
2022年/イギリス/英語/98分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳・渡邉貴子/PG12/
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ © 2022 SIR REEL LIMITED 
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