『箱男』映画レビュー カッコ良さの刺激は引きが強い

『箱男』は、カッコいい映画だ。このカッコ良さの後味は、見ないとわからないインパクトでずっと続く。箱に入った男が主人公だというと、「わけがわからない」「意味不明」「むずかしい映画なのでは?」というイメージが沸くかもしれない。でも、そんな考えを一気に吹き飛ばしてくるスタイルの強さが特徴だ。

『箱男』のカッコ良さの理由はどこにあるのだろう。

映画『箱男』は、撮影前日に企画中止となってから、27年後に完成し公開となった。『狂い咲きサンダーロード』、『蜜のあわれ』の石井岳龍監督と、主演の永瀬正敏の情熱と固い意思が伝わってくる。以前の企画がどのぐらい残っているのかはわからないけれど、時代が変わって、むしろ幸運なのではないかという気もする。テーマが今的なのだ。

次に、俳優陣。主演に永瀬正敏。競演に浅野忠信、佐藤浩市。これだけのメンツが、真摯に演技力と存在感の全てを注いでいる。

永瀬正敏の静謐な存在感、浅野忠信のいかがわしさと、饒舌な動きで魅せる形、佐藤浩市の一瞬の表情の凄み。彼らがなぜスターなのか、三者三様の個性が鮮明でわかりやすい。

紅一点の白本彩奈は、堂々として、清楚で謎に満ちている、彼女の存在は、映画『箱男』の質と絵の美的面をを強く支える。

そしてアクションシーン。前半のアクションシーンは、「普通」の枠を超えているが、緊迫感と危険に満ちている。なぜって、こっちは箱に入っているのだ。狙われる理由も、相手が誰なのかも、最初は明かされないが、命がけの本気の戦いが起きてくる。

箱アクションの動きの見事さには、惚れ惚れさせられた。どうすれば、あのような動きができるのか。あの箱の動きを見るだけでも、満足するレベルと言ったら大げさか。

安部公房原作小説は、反小説とも言われている。だが、映画『箱男』は、ストーリーも見どころも美しさもある。前半は、ゴミばかりの世界が映っていた。それが徐々に洗われ、浄化されていくようにも見える。哲学的要素もある、それは見た側に大きくゆだねられるのだが。

『箱男』のカッコ良さは、映画や作ることに対する純粋性にも通じる。にごりのないピュアな世界が、読後感となって残る。これほど刺激的なテーマの映画を、カッコよく作れてしまう日本の映画界は素敵ではないだろうか。

(オライカート昌子)

箱男
8月23日(金)全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2024 The Box Man Film Partners
監督:石井岳龍
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市
原作;安部公房