『355』映画レビュー

007も『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、名目上、女性に置き換わった時代だ。スパイアクション映画の世界も、女性がメインを張る作品が多くなってきた。例えば、『レッドスパロー』や『アナanna』など。だが、団体戦となると、女性がグループを組み世界を守るために戦うのは、『355』が初ではないだろうか。

355とは、何なのか。それは最後に明かされる。アメリカ、ドイツ、英国、中国、コロンビアのエージェントが勢ぞろいし、南米犯罪組織が開発し、奪取された世界中のシステムを攻撃できるデジタル・デバイスを取り戻すのが『355』の女性スパイたちの目的だ。

アメリカCIAのメイス(ジェシカ・チャステイン)、ドイツのBNDのマリー(ダイアン・クルーガー)、英国MI6のハディージャ(ルピタ・ニョンゴ)さらにコロンビアのエージェント組織御用達の「心理学者ドクター・グラシエラ(ペネロペ・クルス)、中国の秘密組織の女性、リン・ミーシェン(ファン・ビンビン)。彼女たちが集まってくる過程にはワクワクさせられる。

スパイアクション的シーンは、今まで男性が演じてきた映画の女性版の意味以上の個性は感じられない。どこかで見たシーンのオンパレードだ。例えば、市場での逃走シーンや、ドレスアップの姿が艶やかなオークション会場シーンなど。説明不足な部分もある。

『355』が際立つのは、女性ならではの視点がしっかり描かれ、映画の芯として立ち上がっているところ。大事なものを守れるか、守れないかというぎりぎりの選択が試されるシーンが特に印象的だ。男性スパイは基本独り者が描かれることが多い。女性、特の場合は、普段、自分以上に家族やパートナーを優先してきたことが多い。

暴力沙汰とは無縁だった普通の母親のドクター・グラシエラの場合は、特に顕著だ。家族が暴力にさらされる可能性は、恐怖の度が強い。今回彼女は純粋にドクターとしての参加したはずだったのに、非情の世界に投げ出されてしまったのだ。

女性グループというと、どうしても相容れない同士もある。女性ばかりの職場によくあるような。そんな複雑なライバル関係もリアルに感じさせる。それが、次第に心が通っていく様子はきめ細かく描かれている。

当代一流の女性陣を集めただけあって、男性キャストも面々を揃えている。エドガー・ラミレスや、セバスチャン・スタンなど、なかなか今まで見せなかった配役だ。

(オライカート昌子)

355

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS. (C)355 Film Rights, LLC 2021 All rights reserved.
2022年製作/122分/PG12/イギリス
原題:The 355
配給:キノフィルムズ