映画のプレスにはこうあった。
フランスが誇る名門、アンリ4世高校の教師フランソワはある日突然、パリ郊外の教育困難中学校に送り込まれる。
今まで、生粋のフランス人を相手にしてきたフランソワにとって、移民など様々なルーツを持つ生徒たちの名前を読み上げるだけでも一苦労。
カルチャーショックに打ちのめされながらも、ベテラン教師の意地で問題児たちと格闘していく。
そんな中、生徒のセドゥが遠足で訪れたベルサイユ宮殿でトラブルを起こし、退学処分の危機を迎える。
フランソワは、これまで感じたことのなかった使命感から、セドゥを守るための戦いに挑むのだが・・・。
監督はオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル、製作当時47歳の新人。
長年、フォトジャーナリストとして世界中を取材してきた経験あり。
短編監督の経験はあるものの、これが長編監督デビューとなる。
またもやフランス人による教育ものかぁ。
見終わってすぐ、監督インタビューのお誘いがあった。
ナイス! 私には監督に確認したいことがある。
その部分は、「●●●●●」と隠すので、
安心して以下のインタビューをお読みください。笑。
よくある優等生っぽい教育現場の奮闘記かと思いましたが、ユーモアたっぷりの娯楽作でした。まちがった先入観で臨みました。ごめんなさい。
監督「偏見が覆ってよかったです」笑。
様々な国で上映されていますが、上映後、どんな国のどんな質問が印象に残っていますか。
監督「不思議なことに、どの国でも同じ質問を受けました。教師フランソワが、カンニングを許容するシーンの是非です。私は学ぶ楽しさを得られるのであれば、ある程度許容するタイプなのですが。上映後、『まるで私の学生時代とそっくりで驚きました』とする感想も多くありました。移民、貧困、格差といった社会はまさにユニバーサルな問題なのだと改めて感じました」
構想2年、撮影7週間。脚本は撮影中に変わっていったと聞きました。
監督「初めの4週、残りの3週と2回に分けて撮りました。2つの撮影期間の合間で未撮影の部分を黒みにして繋いでいきながら、シナリオをよりリアルに書き直していったのです」
リアルというか、監督がおっしゃっていたバーレスク流コメディ(風刺的こっけい)にはセンスがみなぎっていました。
「名門校」から「問題校」に出向しなければいけない原因は、なんとハニー・トラップ。こんな出だし、フランスかイタリア映画ならでは、でしょ。
赴任初日、フランソワ先生の携帯電話が無くなる。生徒を疑って、電話が見つかるまで全員居残りを告げた瞬間、先生のカバンの底から電話の呼び鈴が鳴る。
あの居心地の悪さといったらなかった。
名誉挽回するために、その夜、必死で生徒の名前を覚えようと席順シートと格闘するも、移民の子ばかりで発音すらできないフランソワ先生の焦りっぷりはなるほどこれもバーレスク流コメディかとニヤリとした。
2年間の取材が活かされる見事な導入部でしたね。笑。
監督「そう。様々なリサーチから主人公となる教師のキャラクターを作り上げるのにかなり悩みました。あれもこれもと大きく膨らみすぎた造形からどんどん削ぎ落として、現実味あるキャラクターをこしらえるシナリオが一番苦労した点かもしれません」
演技素人の生徒たちも、物語の中で驚くほどの成長を遂げますね。
目の輝きが増すし、歩幅も堂々とキビキビとしていく。
いみじくも女性教師クロエの言う、『問題児から大人が学ぶことは多いのよ』。
これが映画のテーマですね。
監督「そのとおりです。自分が知らないものとめぐり合うときこそ、自分自身を確かめられるとき。人生とはそんなもんです」
日本では軽んじられる『子どもの人権』というものが、あのセリフできちりと納まった映画でした。
じゃあー、そろそろあの質問をぶつけてみようかな。
フランソワ先生がクロエ先生に渡すプレゼント!
あれは、●●●●●ですよね!
監督「そう! アタリです! クロエはそのプレゼントの包みを開けてみたくてしょうがない。じつは、あの包みを開けるシーンを撮ったけど最後の最後にカットしたんです」
くーっ、オリヴィエ監督、アンタやるねぇ。
それが正解でしょ。
監督「各国の上映会で、上映後にあのプレゼントの中身が話題になりますが、当てるのは女の子ばかりなんですよ」
物語の伏線として、「レ・ミゼラブル」本だったり、詩集だったら陳腐な映画になってた。。。。。
オイオイ、そこまで言うか、の表情の監督「フランソワは立派な大人の教師だけど、心は少年なんですよ」
ここまで来たなら、もひとつ質問。
ズバリ、オリヴィエ監督はマザコンでしょ。
監督「・・・・・」
エンド曲でそう感じちゃいました。笑。
ラストに流れる、1968年ヒットの『悲しき天使』。
翌年、監督が生まれていますね。
胎児のとき、お母さんのお腹の中で何度もなんども聞いていたはず。
この曲をラスト・シーンに流した理由はなんですか?
監督「この『悲しき天使』は、インストルメンタルとか、様々な歌手が歌っていて少なくとも15種以上のバージョンがある。それぞれ聴き比べてみたけど、私のお気に入りはやっぱり大ヒットしたメリー・ホプキンの歌声でした。この澄んだ歌声にこれまでの人生の喜びや悲しみ、子供時代のノスタルジックな思いも全て入っていて、何があろうと絶対これで映画を締めたいと思ったのです」
もともとはロシアのメロディで、ジプシーの歌でもあるようですね。誤解を恐れず言うならば、貧しい暮らしながら改めて少年少女期を懐古すると愛情や思いやりに溢れる素晴らしい時代だったということですね。
監督「ほらね、あなたもこの曲に涙したでしょ。あなたもマザコンなんですよ、きっと」
ハイ、そのとおりです。笑。
『12か月の未来図』
4月6日(土)より岩波ホール他全国ロードショー
監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル
出演:ドゥニ・ポダリデス「最初の人間」、レア・ドリュッケール「ジュリアン」
2017年/フランス/フランス語/107分/シネスコ/5.1ch/原題:Les Grand Esprits/英題:The Teacher/日本語字幕:岩辺いずみ/G/
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
© ATELIER DE PRODUCTION – SOMBRERO FILMS -FRANCE 3 CINEMA – 2017