『ハンターキラー  潜航せよ』映画レビュー

『ハンターキラー 潜航せよ』映画レビュー

 最近は女性が大活躍する映画が当たり前のように作られるようになり、それはそれでうれしいが、女の出る幕がまったくない映画というのもいい。私闘なら『女は二度決断する』(2017)や『スリー・ビルボード』(2017)のように、女ならではの物語もできるが、集団での野蛮な闘争となると、やはり男の世界である。

 アメリカとロシアの原子力潜水艦が海の底で一触即発、というからには当然アメリカ映画かと思ったら、イギリス映画である。ロシア軍のクーデターにより、ロシアの穏健な大統領が囚われの身になり、世界は第三次世界大戦の危機に見舞われる。これを阻止すべく出航するのが、アメリカの攻撃型原子力潜水艦「ハンターキラー」で、着任したグラス艦長(ジェラルド・バトラー)は現場でたたき上げた、根っからの潜水艦乗り。こういう人物設定がどことなく懐かしく好感を呼ぶ。

 くわえて、撃沈された(のちに誤りとわかる)ロシアの潜水艦から「ハンターキラー」に救出されたアンドロポフ艦長(ミカエル・ニクヴィスト)がじわじわと人間味を見せ始めると、話はがぜんおもしろくなる。地上では、ネイビーシールズの小隊がロシアの大統領を救出すべく果敢に行動を開始しており、「ハンターキラー」は敵の領海深く潜航して、一行を救出することになる。

 初めの人間的ハイライトは、敵の海底機雷原を行く際のアンドロポフ艦長の助言が正しいかどうかというところ。彼はこの状況と危機を理解しているとグラス艦長は言うが、信用しない部下がいる。ジェラルド・バトラーの人を見る眼をわたしは信じるが、ミカエル・ニクヴィストの表情は凍りついているようでよくわからない。

 ハイライトが積み重ねられて頂点に達する前に、最も魅力的なシーンがある。「ハンターキラー」がロシア駆逐艦と対峙するはめに陥ったとき、アンドロポフ艦長が自国の駆逐艦乗組員一人一人に呼びかけるシーンである。「一人一人、わたしが鍛え上げた」と明言するアンドロポフ艦長の人望が試されるときで、ミカエル・ニクヴィストの控えめな威厳に満ちた名演によって、人間の信頼関係における幸福感が最高潮に達する。物語ってやっぱりいいなあ、と胸が熱くなる。

 グラス艦長の行動や決断を、軍の規律を振りかざして批判する部下に「規則か生きることか、どちらが大事だ」とグラス艦長が激しい口調で言うシーンも、ひとえに演じるジェラルド・バトラーのイメージの魅力にかかっている。彼が軟弱なリーダーに見えたら、そもそも発言そのものが無意味だ。この発言は「俺はおまえたちを必ず生きて帰すぞ」という宣言そのものなのである。

 別れ際に、お守りにしていたコイン(メダルか)をアンドロポフ艦長に手渡すグラス艦長の姿に、たとえば『カサブランカ』(1942)のエンディングを重ねてみる。これも「美しい友情の始まりだな」と。裏切りが充満する現実の男たちの世界と違って、物語の男たちはなんとすがすがしく、私欲にまみれずに生き抜くのだろう。

 そういえばこの映画を鑑賞する前日に『バイス』(2018)を見たが、最後に『ワイルド・スピード』シリーズへの皮肉が添えられていた。確かに『バイス』が訴えるように、わたしたちは不快で厳しい現実や政治の諸問題に目を向けるべきなのだろう。しかし『ワイルド・スピード』の製作陣が放ったという、この『ハンターキラー 潜航せよ』のほうが、明らかに映画として『バイス』より格上だとわたしは思う。
                             (内海陽子)

ハンターキラー 潜航せよ

4月12日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2018 Hunter Killer Productions, Inc.
監督;ドノヴァン・マーシュ
キャスト:ジェラルド・バトラー、ゲイリー・オールドマン、コモン、リンダ・カーデリーニ、ミカエル・ニクヴィスト
原作:ジョージ・ウォーレス&ドン・キース「ハンターキラー 潜航せよ」(ハヤカワ文庫)
2018/イギリス映画/アクション・サスペンス/122分/配給:ギャガ
公式サイト